第二章 ピカデリーホテル

ファイサルはがっくりした表情を浮かべ、ジェッタを睨むと「此処を引き払う! みんな出る支度をしろ!」と指示した。ジェッタは「イマルが!」と言って首を横に振ると、ファイサルが忌々しい顔をして、「イスラムドクターを直ぐ呼んで見させろ! 診察を終えたら直ぐに出る」と言って又ベッドへ横になった。

女のエレラが直ぐドクターに電話し、直ぐ来て頂きたいと話をしていた。間をおかずドクターが来て、寝ているイマルを見ると、またか!という顔をして「難しい患者ばかりだな……」と言った。

車に乗った時より更に大きく腫れあがった頭を見て、直ぐにバッグから注射器を取り出し溜まっていた血を抜き出した。腫れが引いて手で凹んだこめかみを触りながら、「早くレントゲンで見て処置した方が良い。骨まで凹んでいる……」と言った。

ジェッダが「目を覚ますように何か出来ないか?」と聞くとドクターは「其れは無理だ! 此のまま放って置くと二度と目を覚まさないかも知れない」と応え、必要な薬と又腫れた時の血の抜き方を教えると帰って行った。

サリムが「あのやぶ医者は直ぐ来てくれるが法外に高いな……」とボソッと言った。誰も何時自分が世話になるか分からないので医者は大事にするべき!と肝に銘じていたので、黙って聞き流していた。

翌朝早く出発の準備を終えた四人はサリムの運転で出発し、サリムとエレラはロンドンへ残って、此のアジトの整理と他のアジトで英国四井物産のショウの動きを見張るように指示された。

四人はロンドンから少し離れた地方空港からモロッコエアを使いモロッコ経由でシリアに帰国し、シリア内で内戦を戦いながら各所でテロも行っている秘密軍事基地へ帰った。

戻ると基地で手術を受けているイマルを別にして、ファイサル、ジェッダ、ダンの三人は、司令官に呼ばれこっぴどく怒られた。司令官は既に大筋の情報を掴んでおり、今回のミッションリーダー、ファイサルに怒っていた。

「ファイサル! このミッションは、王子と王女を脅すだけだ!と指示した筈だ! それなのにこんな大混乱を引き起こして、一体どういう了見だ!」と厳しく叱った。