第二章 ピカデリーホテル

翌日曜日の朝刊も一面トップで報道されたが、食事を伴うコンサートだった事もあり、来場者も一般の音楽コンサートとは異なって少なく、事件直後は一気に出口に人々が殺到し一時大混乱したものの負傷者も多くなく入院した人も十数人で、王室からはボディガード二人が負傷した以外他に負傷者はいないとコメントが出された事も有り、大きな事件の割に収束は早かった。

夕方には高速道路M1で起きた十台以上の多重事故ニュースにとって代わった。

インペリアルホテルの最上階に滞在している王族一行に対しロンドン警察・スコットランドヤードは、事件当夜から日が変わった以降も、今回の襲撃事件について是非伺いたいので、事件当夜におられた王族一行の何方かにヒアリングの時間を頂きたいと再三申し入れをしていた。

王族側も、今回の件に大変驚いているので暫く待って欲しい!とお願いすると共に、王子・王女共に、怪我は無いが疲労が有り休んでいるので静かにして頂きたいと応えていた。

ロンドン警察・スコットランドヤードは、外国王族へのテロをロンドンで起こされたので、普段テロ対策を強力に推し進めている立場としては面子をつぶされた格好だった。

そこでビッグバンホールを完全シャットアウトして詳しく調査し、従業員を含む関係者の聞き取りや入院患者、負傷者にヒアリングをして事件の流れをほぼ掴んでいた。しかし肝心の襲われた王子と王女、ボディガードには未だ顔も合わせていなかった。

クリストファー上級警部は本案件の統括責任者となり、部下の優秀なリック警部と組んで調査に当たっていた。

シャットアウトした現場からステージとステージ前のテーブルそして天井に多数の弾痕を残したハンドガンが既にリックの手元に届いていた。しかしながら指紋等使用者を特定できるサインは一切無かった。

座っていたテーブルにも一切無く、どうやら透明な手術手袋を着用した様子と鑑識から報告が上がっていた。犯人は、食事も殆ど頼んでいないのでウエイターの印象も薄く、それでも何人かの証言から寡黙なアラビア人らしいとの見通しは立った。