四
その声の主は青山助役だった。
「村長、いや、権田原さん。大切なお話をしたいのです」
と二人で役場の応接室へと向かった。
役場のロビーを二人で歩きながら
「権田原さんには、村長の『影武者』という無理なお願いをしたにもかかわらず、立派にやり切っていただきました。職員一同皆感謝しております」
青山助役は頭を掻きながら嬉しそうな顔をしている。
「今日は、ぜひお会いしていただきたい方が待っているのです」
青山助役は応接室の扉を開けた。すると、そこには日野多摩商店街・会長の葛西さんが座っていた。日野多摩商店街は役場の前にある六軒ほどの小さな商店街。葛西会長は、村で唯一のスーパーマーケットの社長をしている。
葛西会長が椅子からさっと立ち上がり「権田原さん。『影武者』のお役目、本当にお疲れ様でした」人懐っこい笑顔で頭を下げてくれた。
だがどこか様子が違う。
日頃は威勢のいい葛西会長が今日はかなり思いつめたような顔で下を向いて椅子に腰かけた。葛西会長と青山助役は、二人並んで座りながら、肘でつつき合いをしている。私はその滑稽な様子を見て一人で笑っていた。
すると青山助役は、ニヤリと微笑みながら私のひざ辺りのゴミをパパっと払ってくれた。青山助役の顔が再び悪代官か悪魔のような顔に少しだけ見えてきた。