おーい、村長さん

兄・正一の葬儀は、新宿の実家近くにある葬儀場で近親者のみで営まれた。

日野多摩村主催のお別れの会は、その翌週、「道の駅ヒノタマ」を使って行われ、村民五百人ほどが参列した。お別れの会の席上、正一の弟・正二として私はお礼のあいさつをした。

私がマイクの前に立つと

「あれ、村長さん、元気じゃないか」

「村長さんの幽霊かい」

参列者の囁く声が聞こえてくる。

「本日は、兄・権田原正一のお別れの会にご参列いただき、ありがとうございます。兄・正一は不思議なご縁で日野多摩村に移り住み、皆さまのご支援で村長まで務めさせていただきました。本当に幸せな人生だったと思います。

ただ任期途中で病に倒れ大変にご迷惑をおかけしました。また兄の闘病中は臨時で弟の私、正二が代行をさせていただいておりました。誠に申し訳ありません。いわゆる『影武者』のような形となりましたことをこの場をお借りして心よりお詫び申し上げます」

私は深々と頭を下げた。会場が「えーっ」という驚きの声でざわつき始めた。しばらく会場は参列者の声で騒然となってしまう。

「どういうことなんだ。説明しろ」

「村の住民を騙していたのか」

何人かヤジを飛ばす人まで現れた。

「本当に申し訳ありませんでした」

何度も何度も頭を下げてお詫びし続けるしかなかった。当然、お別れの会が行われると決まったときから、私は激しく非難されることは充分に覚悟していた。私と姉の恵子、青山助役も並んで頭を下げ続けた。