三章「ロマンシング・デイ」当日、彼らは帰ってくる

それにしてもまさか、あの不真面目な生徒が社長になるなんて……。両親の遺伝によって、地頭が賢かったおかげもあったのだろう。結局マリッサは一発逆転の成功を収めたということになる。

今日は驚かされることばかりだ。数年会わないだけで一人一人が聞き逃すことのできない話題を持ってこられるものなのか。少なくとも俺らは、凡人の集まりではないことは確かだ。

なぜ、起業をしてみようと行動を起こしたのかマリッサに聞いてみた。

悩むそぶりを一切見せることはなくマリッサは「お金がないからよ」と答えたのであらかじめ質問されることを予期して答えを準備していたようだ。

「女性は兵士には向いてないから徴兵されると工場で働かされることは知っているでしょう?」

「それは当然知っている。例外として女性が兵士に採用されることもあるけどな」

「トラヴィスは第九歩兵部隊のお給料が少ないといっていたそうね。でもね、工場で働いていた女性の給料は、トラヴィスのお給料よりもずっと安かったのよ。任期を終えても、しばらく余裕のある生活を過ごしていけるお金すらなかったの」

「任期を終えてからすぐに就職活動したらよかったんじゃないの」

当然の疑問を抱いた。エマは俺の疑問に答える。

「就職出来るならみんな就職活動しているわ。徴兵令のせいで、就職前に結婚平均年齢に近づくことから、企業は雇ってもすぐに辞めていくだろうといって雇ってくれないのよ。アタイは数百もの企業を回ったけど、どこも同じく突き返されるの。唯一採用されたのがレストランよ」

「レストランといってもアルバイトとしてよ。女性に残された道は起業かアルバイトしかないの」

マリッサは補足をした。

マリッサは起業して成功したからよかったものの、マリッサのように起業しても誰もが成功するとは限らない。失敗して多額の借金を抱える人の方が多いだろう。

また、リスクを回避するためアルバイト生活を続けるエマのような生活を選んだ人はこの先、裕福な暮らしをしていくのは困難だろう。いい相手を見つけることができたら話は変わってくると思うのだが……。

「ガーデンをみせてくれよ」

興味をなくしたトラヴィスは席を立ちあがりテラスの方へ歩き出した。勿論未完成のガーデンには行かせないつもりだったが、「じゃあ俺も」とドランも立ち上がったので断れなかった。