ドランが立ち上がったと同時に「そろそろ残りの二人も来ると思うから私はキッチンで食事の準備をしてくるわ」とステファニーも立ち上がる。
「アタイも協力するわ」とエマもあとに続いた。
「レストランのアルバイトが役に立ったな」と俺は励ましたはずだったが、マリッサは思いっ切り首を振っていた。
「ウチも手伝うわ」とマリッサがいった途端、エマとヘラ、ガーデンにいる二人までもがピクッと動作が止まった。
「だ、大丈夫だよ。人数は足りているよね、ステフィー」
「手伝ってくれるなら嬉しいわ」
頼むからここは空気を読んでほしい……。
「残りの人はこのままお話しして待ちましょう」とヘラがマリッサを引き留めた。
「そうね、そうしましょ」
なんとかことなきを得たようだ。ガーデンで動作が止まっていたトラヴィスとドランも安心してガーデンを徘徊し始めた。
「それじゃ行きましょう」とステファニーとエマはキッチンへ向かった。
中学生時代、マリッサの家でお誕生日会があった。マリッサの手料理の味はゴムタイヤみたいなものだった。マリッサには「おいしいよ」といい、笑顔を見せながらたくさんある料理を完食しなければならなかった。
帰り道、俺らは家族みたいなものなんだからマリッサに本当のことをいってあげたら良かったのか、とライトと話していた。
その日、俺とライトとの間で秘密は作らずに本音をいい合うと約束した。これがお互い信頼いし合えるきっかけとなったのも事実だ。俺はまだマリッサに対して疑問があったため、聞いてみることにした。
「生活の苦難をなくすために起業をしてお金を稼ごうとするのはよくわかる。しかし、起業をするだけでもお金が必要になってくる。それ以外にもいつ、どこで起業論を学んできたのかも疑問だ」
具体的に俺は起業するための資金をどのようにして調達したのか、という疑問を投げかけた。
「ある知り合いの小説を読んで社長を目指そうと思ったの。社長になるため心得もその本から学んだ。そこに資金調達の方法も細かく書いてあったから銀行にいくのが一番だと分かっていたわ。でもそう簡単にはいかないものね。
でもある日、お家のポストに入っていた広告に、『お金を借りてあなたも憧れの社長になろう』という宣伝があったの。私はちょうど行き詰まっていた時期だったから、真っ先に広告の中央に大きく書かれていた電話番号にかけてみたわ。
そしたら快くウチが望んだ金額を出してくれたの。たくさんの銀行や企業を回る覚悟をしていたから、一回目で貸してもらえるなんてさすがにビックリよ」