人生の住所教えて ――私は幸せ通り一丁目三番地!?――
はじめに
この本を手に取って自宅でゆっくり読んで下さるあなたに、心を込めて「こんにちは」「こんばんは」とご挨拶いたします。私は市井の一人の福祉の活動家(ソーシャルワーカー)です。
半世紀の仕事は、なぜか「はじめと終わり」に関わってきました。まことに数奇な運命でした。「社会福祉学」は未だ開拓期でした。施設の現場のコロニーなどはその建設期でした。やがてグループ・ホームの開設へと移行しました。
日本の国立大学では先駆けとなる福祉科学部の創設への挑戦。しばらくして国立大学から国立大学法人への変革などなど。このように「はじめと、終わり」へのめぐりあわせです。その間施設現場の実践と「福祉の原理論」研究が各々に約25年でした。
この本では人生という大きなテーマを「旅」「日誌」「読後感想」と三つの視点から捉えています。著者の社会福祉にまつわる「体験」から、それを「経験」に高めつつ読者に多面的に考える機会を提供したいと思いました。貧しい福祉の現場で疲弊したこころを旅で出会う様々な感動や日常の気づきを栄養素として補いつつです。また新たな境地を目指します。
しかとした信念を伝えることができるかどうかいささか不安ですが、どの文章からも醸し出されてくるものは、「福祉の感性」「幸せを紡ぎだす世の中づくり」を、ちょっとした視点、まなざしで見てきたことです。あとは、あなたの「感性」だと思っています。
人生とは何かが、分かりかけた頃に有限の使命が待っています。無限ではありません。高齢社会で人生80年時代から人生100年時代になろうとも、その人自身が「人間とは何か」「社会とは何か」を分かりかけるには「時間」というものがかかりますね。
夏目漱石は50歳台前に亡くなったのにいろんな作品で人間の心の在りようを示しているのに気づきます。昔の人は人生のことを自覚するのが早かったなあと驚かされます。それだけ時間もゆっくり進み、社会や人間を見つめる力と、時間があった時代といえるかもしれません。
今日ではすべてがスピード化社会だけにようやく70歳台後半にしてこころのゆとりのある生活に向かいます。そこでやっと人生を語り始めることになり自らを吐露できるようになるのです。