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人間の赤ん坊は、母親のそのまた母親からの影響を受けている。あなたの人生の出発点となった卵子は、あなたの母親が胎児だった時に形成された。生まれた時には、一生分の卵子がすでに用意されている。その数と質は、あなたのお母さんがおばあさんの子宮にいる時に決まったものだ。
赤ん坊の器官やシステムが二世代前の影響を受けるということは、受精の瞬間だけでなく、何十年も前のおばあさんの栄養状態が関係しているのだ。
筆者コメント
形質の遺伝は、DNAの変化なしにエピジェネティックな働きで子孫に伝えられます。しかし、自身の不健康を父母や祖父母のせいにして、自らの努力を怠ってはなりません。これから子どもを作り、育てていく世代は、自らの食生活習慣を正し、自身の将来の健康だけでなく、子どもや孫の世代の健康を考えて行動しなければなりません。
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人生のベストスタートは胎内から始まる。母親のおなかの中で順調なスタートを切った子どもは、たとえ乳児期に環境が悪化しても、高得点を重ねる可能性が高い。反対にスタートが悪ければ、幼児期に急激に体重が増えて、大人になってから病気にかかりやすくなる。
筆者コメント
筆者の作成した、「生活習慣病ツリー」と「長寿ツリー」に、胎児期、小児期の生活環境、栄養について図示しています(第3章参照)。胎児期からリスクを持った状態で生まれても、それだけで、将来が全て決まるのではなく、出生後の生活と食習慣の改善で将来の健康を獲得することができます。出生時にベストスタートが切れない場合でも挽回可能であることは、DOHaDの考え方で説明できます。
バーカーは、「生活習慣病胎児期起源説」を唱え、子宮内環境と将来の病気を強く結び付けていますが、これはのちに軌道修正し、出生後の環境も影響するとして、DOHaD学説に進展しました。
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母親の食生活が子どもの未来を決める。現代の母親は、自信を持って妊娠に臨むことができる。人類には、何百万年という進化の歴史を通じて築かれた驚異のシステムがあり、母親はその継承者だ。
筆者コメント
人類の歴史を振り返ってみれば、常に食糧不足で、飢餓にさらされていました。また、感染症、病気などにより、平均寿命は短いものでした。地球規模で見れば、食糧が十分に生産され、飽食になったのは、まだ100年余にしかなりません。さらに、科学、医療の進歩により、多くの病気が克服され、平均寿命は飛躍的に延びました。
人類は、数百万年前にアフリカの森林からサバンナに出てきて以来、他の類人猿とは異なる進化を遂げ、驚異的な文明を築きました。それが、人類の遺伝子に作用し、他の動物にはない高度な生命体となりました。母親は、人類の築いた遺伝子システムの継承者であり、健康な子孫を生み育てる能力を獲得していることを、バーカーは強調しています。