圭はそのまま自転車に乗って帰っていった。

玲子は車を運転してマンションの地下駐車場に入っていき、先に来ていた圭が来客用の駐車場まで車を誘導してくれる。

車を降りた玲子に自分の駐車スペースを見せる。

「ここが、515号室の駐車場だよ」

そこには1100ccのドゥカティの大型バイクが一台置いてある。タンクの色は黄色だ。

玲子がそのマシンを触る。「すごい大型バイクね。私の車と同じ色で黄色ね。千佳ちゃんをこのバイクに乗せてこのあたりを走り回っているの?」

圭が笑いながらこたえる。

「俺はこのバイクに女性は乗せないことにしている。千佳には、お前を後ろに乗せて事故になり、怪我でもさせたら困るだろうと言って、まだ一度も後ろに乗せていない。女性を乗せて怪我でもさせたら、俺はその女性の面倒を一生見なくちゃならないだろう。だから俺はこのバイクのことを、女人禁制のバイクと呼んでいるんだ」

その話を聞いて、「変な人ね」と玲子が吹きだして笑う。玲子はバイクの後ろ側に置いてある観音開きの赤い工具ボックスにも興味を示し、「そこにある大きな赤いボックスは何?」と聞く。

圭はその赤い工具ボックスの扉を開けて見せる。

「これにはバイク用の工具一式が入っている。波が良くない日や、秋冬の寒い時期に、ここにある工具を使い、バイクを一日中いじって楽しんでいるのさ」

そう言って赤い工具ボックスに隠している秘密の鍵を取り出す。

「これは玄関ドアの合い鍵だよ。サーフィンをしている時、鍵をなくしちゃって大変だったことがあったんだ。それからここに予備の鍵を入れてあるのさ」

玲子が首をかしげる。

「そんなわかりやすいところに掛けておいたら、すぐ泥棒に見つかるじゃない」おどけて圭がこたえる。

「ここが泥棒の意表をついた隠し場所さ。玲子もこれが玄関ドアの予備の鍵だなんて、絶対わからないだろう」

圭は笑いながら観音開きの扉を閉じ、玲子と一緒にエレベーターに乗り五階で降りる。圭は玄関のドアを開け、「どうぞ」と言って玲子を部屋の中に入れる。

【前回の記事を読む】圭は寝室の中に入っていき、千佳が座っている椅子の後ろに立った