そしてぼくは、見てしまったのだ。カーセックスというものを。なんの興味もないかのように車に近づき、たしかにやっているらしいことが分かると、身をかがめ、いっそう近くに寄り、そうっとノゾキ込んだ。

暗くてはっきりは見えないが、男が腰を振っていること、女が小さくあえいでいる声が聞こえた。ぼくの心臓はものすごくドキドキしていた。ぼくは童貞であり、キスさえしたこともない。もちろん生で他人のセックスシーンを見たこともない。

もっと近くで、窓に顔をつけるくらい近くで見たくて、ぼくは最接近を試みた。その時パトカーの赤灯が車のボディーを照らしたのだ。ノゾキの罪で捕まる!と思い、ぼくはダッシュで逃げ出し、公園の植え込みに身を隠した。もし捕まったら恥ずかしくてもう生きていけない。

ぼくはひたすら身を縮めた。パトカーは行ってしまった。ただ、パトロールで道を通っただけのようだ。ぼくはアンドし、もうノゾキへの興味など失っていた。そのうち例の車もどこかへ走り去ってしまった。

誰もいない深夜の公園のベンチに座り、ぼくはボウゼンとしたり、うんざりしたりしていた。警察に捕まらなかったことでほっとしながら、自分の行為の虚しさと愚かさにがっかりし、腹が立ち、自分の日々、自分の人生のつまらなさ、ばかばかしさにうんざりした。

ノゾキに熱中し、警察にビビッて一目散に逃げ出すとか、なんなんだよ。昼間は図書館でガキを追い回し、夜はノゾキに精を出し、アホならまだしも、変態で犯罪者じゃねえか。

しかも更に気に入らないのは、こうやって反省している振りを見せているが、再びあの興奮を求めて図書館で少女を探し、ノゾキをしたくて夜の公園を訪れるだろうことが、目に見えているからだ!

これがオレの人生か。こんなくだらないことするための人生か。オレは何のために生まれ、生きているのか。毎日毎日無意味なさまよいを繰り返し、ブザマな行為を繰り返し、いったいどこに行こうとしているのか。いつになったらこんなことが終わるのか。オレは一生このままか……。

街灯の届かない真っ暗な場所を眺めながら、ぼくはなんの光も見えない自分の行く末を見ていた。今となっては、母親の小言に弁解する言葉もなかったし、ただただ自分の馬鹿さかげんを自覚しながら、寺にこもって一生を終えるのが、せめてましな人生を送るための最善の策かもしれない。

【前回の記事を読む】無職を父に笑われ、母に小言を言われた。よしよし、計画通りだ。