第一章

4 さまよいは続くよ、どこまでも

『…家に帰ると午前0時に近かった。そして今この日記を書いている。もう日をまたぎ、八月一日になってしまった。クソみたいなことばかりしていてすっかり忘れていたけど、世界は滅びなかった。

一九九九年七の月に、天から恐怖の大王は降ってこず、落ちてきたのはクソだけ。クソのような一日だけ。相変わらずクソのようなぼくの人生は生き残ったままである。

日記の表紙に、「暗黒日記」という題名を書いてやろうとして、いや、こんなものは一生誰にも見せるつもりはないから、名字をもじって、「ヒミツの暗黒日記」にしてやった。

クソみたいなぼくにふさわしい題だ。それにしても、これからも世界がつづくかと思うとうんざりする。せめてもう馬鹿なことはやめにしたい。明日からは、寺の修行僧のつもりで生きていくことを誓う。一日部屋から出ず、自分を高める行為にボットウしよう。』

 

眠らないようにスマホを見たり本を読んだりしながら、二十二時半を過ぎると私は行動を開始した。部屋の窓から出て忍び足で裏庭を横切り、塀を乗り越え、細い路地に降り立つ。辺りを見回すと、近所の家の窓に灯りはなく、誰にも見られている様子はない。私は夜のさまよいに出発した。

心の中には憂いではなくかすかな楽しさが占めていた。深夜の散歩など久しぶりで物珍しく、なつかしく、この時間になってもまだ熱気の籠もる空気が、外出への抵抗感を忘れさせてしまうのだ。

さすがに深夜帯になっているので、車の通行はいくらかあっても人の気配はない。当時と同じ道筋をたどり公園へ歩いていると、かつて田んぼだったところにパチンコ屋ができていて、当然もう営業は終了していたが、駐車場には車が二台離れて停まっていた。

もしカーセックスしたいなら公園でどうぞと言いたい。私はそこでのぞきをする予定なのだから。さすがに日記の通りとはいかず、公園の駐車場に車はあらず、カーセックスをのぞき見するという計画は頓挫した。

仕方なくベンチに腰かけ、公園を眺めた。遊具もいくつかあり、グラウンドもあるという広い公園だ。名称は新里公園という。若き日の私は、夜更けにいたたまれなくなった時、たびたびここを訪れては時間を潰していた。

あの部屋にはもういられない、いてもなにも解決しない、解決するまではもう帰るまいと決めて出てきては、ベンチに座ったり芝生に寝転がったりして、なにか救いのごときものが訪れるのを待っているのだが、結局はなにも訪れず解決せず、待ちきれなくなってトボトボと家路に着くのが決まりだった。