第一章

5 私の挑戦

ところがやはり、大人になり、社会的生物として飼い慣らされてしまった私には、書き進めることができなかった。青春の感覚を取り戻さないことには無理だと分かった。すると以前より隠し持っていた夢が、ここで顔を出してきたのである。

日記の通りに過去を生きてみたらどうだろう? かつての濃密な時間を取り戻し、精神を若返らせることで、書けるようになるかもしれない。それは、会社員であり家庭人である自分には実現困難な目標かもしれない。けれどなんとワクワクする計画だろうか。

己の魂をあえて危険にさらし、ヒリヒリゾクゾクする冒険のごとき日々を始めるのだ。それを思うだけで、ちょっとだけ若返る感じさえする。とはいえ可憐な恋物語とはかけ離れた暗く愚かな私の青春であるから、仮に若さを取り戻したところで、小説を書けるようになるとはかぎらない。

どんなものかと思いあぐねながら、以前中断したあたりから日記を読んでみた。相変わらず暗く愚か三昧の内容でありながらも、後ろになるにつれ日記を付ける間隔は開いていき、書き方も落ち着いたものとなっていった。表現を日記から小説へとシフトさせていった時期で、小説の構想などを書いていることもある。

やがてまれにしか日記を書くことはなくなり、四冊目の途中で、日記を書くという行為は終わることになる。

けれども、おかしな現象が私の日記に生じていた。最後の記述は大学四年の八月三十日となっている。