『 今日は八月三十日、ちょうど三年前の今日、ぼくは新里公園で首を吊った。
なぜ思い出したかと言うと、家の手伝いのアルバイトでビニールハウスで菊を切っていたら、暑くて熱中症になりかけ、休むためにフラフラになって外に出た。そしたら地面からむき出しになっているなにかの配管につまずき、倒れたひょうしになにかを区画していたロープに突っ込んだ。
そのロープでおもいきり首のあたりをスッてしまい、ノドもとから首の横にかけて赤いマサツの傷ができてしまった。それを見た父が、「まるで首吊りの跡みたいだぞ、へ、へ」と言ったのだ。
家に戻ってから鏡を見ると、なるほどそうだ。かつて首を吊ったときにできた傷にそっくりである。そういえば三年前の今日だったはず、自分が新里公園で首を吊ったのは……。とまあこういうわけだ。
あれ以来首吊りをためしたことはないけど、だからといってぼくが救われたということでもないし、首吊り以外の方法を試したこともある。前ほどのたうちまわるように悩むことはなくなったのは確かだけれど、だからといってぼくを悩ませている疑問に解答が出たわけではなく、そう、なにか自然に、そこまで思い悩まなくなってしまった感じ。
これはもしかして、年を取ったということ? いいのだか悪いのだか分からない。大学四年の八月でまだ就職先も決まっていないのだから、今こそ大いに悩むべきところだと思うが。
そんなものはかつて大いにぼくを悩ませていたものに比べれば、たいしたことではないってか? アレ? そういえばかつてぼくを悩ませていたものってなんだっけ? ヤバイ、もうボケまではじまってる! 』
この日以降日記帳は広い空白となり、新しい内容が書かれることはなかった。別に、この日を日記の最後にすると決めていたわけでもなく、就職活動などで忙しくなり、自然と書かなくなってしまっただけだ。けれど空白となったページをパラパラめくっていたら、突然変な文字が出現して、私の目を釘付けにしたのである。