明らかに私の字ではない。ミミズがのたくったような、クセのある、というか、文字自体を書き慣れていない感じのヨボヨボの字が、羅列されていた。誰が書いたのだろうといぶかしみながら、読みにくいが、読んでみる。
『 ふゆ きょうもカゼつよかった。いっぱいあるいた。くったのはパックのひじき、さといも、サカナのカス、ひからびたメシ、バナナ。ミカンはもちかえる。それからタバコのカス。いえですう。ウマかった 。ヨルのこうえんにいく。カーセックスしていない。 』
『 ふゆ カゼよわくてよかった。いっぱいあるいた。カラスがクルマにひかれた子ネコをくっていた。うまいのか? いくらおれでも、しんだネコはくえん。プライドだ。カラアゲがくいたくなってさがした。くいかけのコロッケしかなかった。はしの下にいく。でんどうこけしなかった。 』
『 ふゆ カゼまたつよかった。ふくやぶれてるとこからカゼがはいってくる。ふくはあった。でもオンナものだった。いくらおれでも、オンナものはきられん。プライドだ。ヤングマガジンもちかえる。とちゅうでこうしゅうべんじょによる。エロなラクガキなし。 』
これは間違いなくサカが書いた日記だ、と気付いた。
ずっと前に私の日記帳を拾ったサカが、なにを思ったのか、自分でも日記を記してみたに違いない。さまよい生活が長いからもはや曜日感覚などなく、季節でしか日付を表せなくなっているらしい。
気になるのは、日記にある夜の駐車場や橋の下、公衆便所にサカが行っているという記述である。あれらは過去の私が訪れ、そのいきさつを日記に記した場所だ。
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