第一章

4 さまよいは続くよ、どこまでも

なにを考えてるのか分からないと言われて、ニンマリしている場合ではなかった。私は途中で夕食を放擲(ほうてき)し、部屋の中で怒り狂わねばならない。

部屋に戻ると私は思い切り枕にパンチした。しかしパンチ力ほどに怒りは込み上げてこないのだった。人の親となった私には、母親の言いたいことも理解できるし、他人の言葉を冷静に受け取れる経験を積んできて、仮に納得がいかない言葉であっても、怒るという感情をどこかに置いてきてしまった。

むろん怒ることだってある。しかし我を忘れて怒り狂うことの無駄は、社会生活の中で叩き込まれている。なにより怒ることの苦しさに、今の私はもう耐えられないだろう。

これがずっと前、私の上司だった五十嵐部長のように、怒ることに快感を覚えられる手合いならいい。しかし過去私がやっていたような、自分を最大の怒りの対象にしつつ、他者、社会、神などを怒ってみても、そこに快楽などひとかけらもなく、ただの消耗地獄に陥るだけだ。

そういう無駄で苦しいだけの怒りの感情を卒業している私が、いくら強く枕を殴っても、ボクサーがサンドバッグを叩いているのと同じである。呼吸を荒げて私は枕に突っ伏した。いい運動になった。これが成果だ。

『……十時半過ぎになって、夜の町をさまよった。本を読むのも疲れたし、やりきれなくて。ぼくはまだ親に言われたことをひきずっていた。外の空気を吸えば、少しは気分もすっきりするかもしれない。

ぼくは深夜のハイカイがわりと気に入っている。他人の目を気にすることなく歩けるから。気になることといえば、警察に怪しまれるくらいだけれど、まだ職質を受けたことはない。

どこか行ったことのない場所、ぼくを受け入れてくれ、楽しませてくれるところ、そういう場所に行きたいけれど、そんなアテはないから、結局はいつものように近くの公園となる。

公園にたどり着くと、駐車スペースの奥の暗がりに、一台の車があり、ぼくは嫌な気がした。人の目があるかもしれないと思うと、リラックスして公園をぶらぶらできない。舌打ちして車を見ていたら、奇妙なことに気づいた。なんだか揺れている。