第一章
4 さまよいは続くよ、どこまでも
こんなことをやっている場合ではない、すぐに就職活動なり資格の勉強なり始めなければ、と焦る。
ずっと昔、同じベンチに座り、己の人格の愚劣さや、人生の意味や目的といった哲学的なことで悩んでいた私が、今はもっと現実的な人生、生活の維持というものについて悩んでいる。どちらが重く深く苦しい悩みであるのか、私は比較した。
暗がりの樹木の間に浮かぶかつての首吊りの自分と、その前の芝生で飲んだくれているおっさんと、つらいのはどっち? おっさんに軍配を上げたくなるところが私の老いを示している。青臭い悩みを見下しているようでは、過去の私にはなれまい。
午前0時近くに帰宅した私は、新しいcに今日の出来事を記した。当時の自分を真似る目的もあるし、過去にどれほど近づいた生活ができたか記録に残しておきたいので、私は過去の日記とともに新しいノートも持参してきたのだ。
今日の出来事を振り返ると、まだ過去を生き直して一日目ながら、ずいぶん遠いところまで来てしまった感がある。失業してから二週間ほど経っているせいもあるにしろ、ついこの間まで私は企業戦士として働き、家族とともに暮らしていたのだ。それが昼間から自慰に励んでみたり、図書館に行ってみたり、深夜にさまよい歩いてみたり。かといって過去の私に近づいている感じも、まだないのである。
明日に備えて眠ろうとしたものの、寝付けなかった。慣れないことをしたせいか、頭が火照ってしまっている。明日以降も、私のなまった神経を削るようなヒリヒリした毎日が待っている。楽しみではなく、不安の方が大きい。やれるだろうか? けれど簡単にやめるわけにはいかない。今を逃してこんな日々を送れることは、もう決してないのだから。
私は自分に言い聞かせるように、なぜ自分がこうした行為をやろうと思うに至ったかを、眠れぬ夜を利用して、再度確認し、点検してみることにした……。
5 私の挑戦
大学を卒業して以来、かれこれ二十年弱、私は社会人として生活してきた。何度かの転職を重ねた後、先日倒産した会社に二十五歳の時就職し、結婚したのは三十六歳、明くる年に長男の亮介が生まれ、マイホームを購入したのは二年前の三十九歳、その間悲喜こもごもありながら、そこそこ幸せに暮らしてきたはずである。