この公園にはいろいろ思い出がある。カーセックスをのぞき見したのもそうだし、首吊りの真似事をしたこともある。
取り囲んでいる樹々の一角が、隣接している工場の裏に面していて、夜になると暗がりに沈んでしまうので、首を吊るのにちょうどいい感じになるのだ。死ぬほど悩んでいるのは嘘ではないと言わんばかりに、若い私は死を試してみたものだった……。
そういうことを思い出しながら、首吊りの木の方を眺めていたら、暗がりの中でなにやら蠢(うごめ)いているものがある。
錯覚かと思って目を凝らすと、やはりグラウンドの芝生で、影が揺れている。あれはもしや青カンか? それならカーセックスではないにしても、のぞきができる。私は忍び足で影に向かって歩き出した。
ドキドキしながら近寄っていくにつれ、私の期待は裏切られていった。その影は艶かしく組んず解れつしていないし、喘ぎ声を漏らしてもいない。
人影であるには違いないとしても、一人だ。ぶつぶつとおっさんの漏らす独り言が聞こえてくるが、なにを言っているのか分からない。どうやら行くあてのないおっさんが、芝生に座り込んで飲んだくれているようだった。
突然、ふざけんな!という怒声が上がったので、見つかったと思い慌てて逃げ出した。離れたところまで逃げて振り返ると、おっさんが追ってくる気配はなかった。おそらくただの独り言だったのだろう。人騒がせめ。私は息を荒げながらベンチに戻り、腰掛けた。
暗がりの中でかすかに蠢いているおっさんの影を眺めながら、私は身につまされる思いだった。
どうしてあのおっさんは公園で飲んだくれているのだろう? ホームレスか? あるいは家賃滞納とか夫婦喧嘩でもして住みかを追い出されたのか、とにかくやりきれなくて一人暗がりの中、飲んだくれている。
無職の私とあのおやじは、考えてみれば似たもの同士かもしれない。あの飲んだくれが、近い未来の自分かもしれないのだ。
仕事が見つからず、ローンも払えず家を差し押さえられ、妻と子にも見放され、行くあてを失って公園で飲んだくれている私が、数年後にあそこにいないとは言いきれないのだ。
今後の私の人生はどうなってしまうのだろうか。不安が襲ってくる。