「先程から車椅子に乗った高齢の収容者を他の収容者が押して歩く姿が目につきますが、自力歩行できない高齢収容者は、何人くらい収容されているのですか?」と須崎に質問した。
「はい、現在九七名の要介護者を収容しており、そのほぼ全員といっていい程がここで介護される事を自ら望んで罪を犯した者達です。本音を言わせて貰えば、日本の姥捨て山です」と須崎もその現状を憂いて吐き捨てる様に言った。
「でも本来、要介護者って介護施設や老健施設で介護を受けるべき人達なのでは?」と至極真っ当な問いを投げ掛けると
「刑務所に入る様な連中は多かれ少なかれはぐれ者といわれる連中です。テレビや映画の中でのフレーズで『人生は一度きり、面白おかしく生きなきゃ損!』なんて耳障りのいいフレーズに共鳴して、刹那的な人生を送った様なはぐれ者が介護保険料や国民年金保険料、住民税、健康保険料を毎月毎月きちんと納めるとでも思っています?
私は『人生は一度きり、面白おかしく、刹那的に生きたなら、成れの果てはここでの介護』と世の中の人達に教えてやることこそ、大切なのではないかと思えてなりません」と須崎が正論を吐いた。
「我々も日々その問題と葛藤しているよ。罰金刑で済ませてやろうと思っても、『そんな大金払えないから刑務所へ入れろ!』と要求する被疑者を要求通りにしたら思うつぼなので不起訴処分や起訴猶予なんてしようものなら、したたかな連中は数日中に万引きや無銭飲食等で舞い戻ってくる。それが現実だ」
と投げやりに現状を吐露した。
「ああ、それでなのかー。知り合いの警視庁所属の婦警が警察官をやっていて何が虚しいかって、万引き犯の間では四回、五回までは起訴はないと高を括っていて、それが都市伝説の様になっていて、三回までの再犯者が後を絶たないとこぼしていた。送検されるのは四回以上って本当の話だったの?」と桜田が言うと
「俺は、万引きは五回以上でないと送検を受け付けないし、ここ二年は万引きで公判を維持した事はない。全て略式起訴で罰金刑にした」と団が現状を暴露してみせた。