類は類を呼ぶ。この二人の米人ペテン師に二人の日本人ペテン師が引き寄せられ、我輩のご主人と同時期にワシントンD.C.入りした。
一人は陸軍の元軍事課長 原 玄(はら くろし)氏。
元々我輩のご主人が赴任する際、中国問題に詳しい軍人の派遣を要請し、その際選ばれた陸大出の鬼才溢れる将校だ。しかし才が溢れ過ぎて陰謀、謀略が三度のメシより大好きな軍人。
もう一人は頭脳明晰、英語堪能な元大蔵省役人の川中 昧(かわなか くらし)氏。
こちらは純粋で真面目な人だけに一度思い込んだら外界が見えなくなり、詐欺師に陥り易い典型。日露戦争時の大恩人の会社に恩返しを…と真剣に思ったのかも知れない。
この二人が米国のペテン師と非公式に協議を重ね、我輩のご主人を含む大使館員や武官、更には外務省本省ともやり取りしながら一つの案を作成していった。
我輩は当初大使館内部の検討会に呼ばれて何度か参加したが、ある日を境に声が掛からなくなった。それは検討案が余りにも杜撰というか理想論過ぎて現実離れしていると非難したからである。
原氏は
「『三国同盟では日本はあくまで防御的で、現に欧州戦争に参加していない国にまで、軍事的な連携関係を拡大するものではない』とし、『相互援助義務は独伊が現に欧州戦争に参加していない国から攻撃を受けた場合のみ発動される』」
という趣旨で日米の了解を得る案としたいという。
これに対して我輩は
「三国同盟は他国に連携を拡大しないというのは日本の勝手な解釈に過ぎず、とても米国がすんなり了解するとは思えませんけどね……。また、『……現に欧州戦争に参加していない国から攻撃を受けた場合のみ発動……』とはずばり言って米国のことですよね。米国が参戦したら日本に独伊を援助する義務が発生すると言っている訳で、米国政府は本当にこれで了解すると思います? 米国のお二人さんお得意の眉唾ものではありませんか?」
と食いついた。
更に続けて、
「それに、細かい条件の中にある『満州国の承認』は日本にとっては喜ばしいことでしょうが、他の『日本軍の撤退』、とか『賠償なし』などに関しては、今の状況下で日本側が保障するとお考えですか? ちょっと事を急ぎ過ぎているような気がしますけど……」
と聞いてみた。
すると原氏は
「黙れ! 交渉事には色々とあるんだ。何も知らないくせに生意気なことを言うな!」
と怒って席を立って出て行ってしまった。