一章 自我が目覚めるお年頃
四 母と過ごした青春の一ページ
そして、生徒もそんな母を慕っていました。
ある日の午後、母が右手を上げてこう言いました。
「ねぇ、みんなで、たまには卓球にでも行かない? もちろん、おばさんの奢りだから安心して!」
母の誘いに歓声が上がり、「行く! 行く!」と次々に手が上がりました。「僕、行きた~い! 亀岡も行こうぜ!」
「亀岡くんが行くなら私も行く!」と芳子に言われると……、
「俺に惚れるなよ、火傷するぜ、ベイビー!」と言いながらも照れまくる亀岡くん。
「そんなんじゃないわよ~。亀岡くんといると楽しいからよ、アハハハ」
「俺は卓球の天才なんだぜ」と鈴木くんが言うと、
「亀岡くんのほうがうまいって!」と芳子に言われて苦笑いする亀岡くん。
店内は大騒ぎ。その様子を両親はニコニコと眺めていました。
その場にいた十人ほどが卓球に行くことになったのですが、父はお留守番。
母を先頭に、タクシーに分乗して亀戸まで行き、卓球を存分に楽しみました。
男女の隔たりもなく楽しいひとときでした。それは母とともに過ごした青春の一ページでした。
五 おばさんは恋のキューピット
ある日、茨城から引っ越してきて間もない近田春香ちゃんは、母に「おばさん。修平ちゃんって、みかどに買いに来る?」と聞いてきました。
「来るよ。修平ちゃんがどうかした?」
「修平ちゃん、学校ですごくモテるんだよ……」
彼女の表情を見て、私は(春香は修平のことが好きなんだな~)とピンと来ました。
「修平ちゃんは明るくて優しいからね」と言うと、春香は嬉しそうに頷きました。
そんな噂をしているときに限って……友だちと一緒に修平がみかどに入って来ました。
「あらっ、修平ちゃん、いらっしゃい!」と母が言うと、
「あれっ、おばさん、美容院に行ってきたの? 髪の毛、きれいになっているね」
「あら、嬉しいわ、修平ちゃん! おばさんの家族は誰も気がつかないのよ~」修平は私の隣にいる春香にも声をかけました。
「近田! おまえもみかどに買いに来てたんだ……。ここのあんこ玉、いつも新しいからウマいよ」
「じゃあ、買ってみる」と春香が言ったとき、母が突然、「春ちゃんから聞いたけど、修平ちゃんって、クラスでモテるんだってね」と言い出しました。
(あぁ、言っちゃった……!)と私は心の中で慌てました。春香が修平のことを気にしていると気づかれたら、マズイと思いました。
「おばさん、言わないでよ~、恥ずかしいから……」
春香が真っ赤な顔で母に訴えると、今度は修平の友だちの一人が……、
「おばさん、修平は近田のことが好きなんだよ……なっ、修平!」と言ったのです。