一章 自我が目覚めるお年頃
六 みかどは永久に不滅です。
ある日、木島くんという小柄な中一男子がみかどにやってきました。木島くんは目つきが鋭く不良っぽい雰囲気ですが、母は彼をとても可愛がっていました。母に向かって、
「おばさんさ~、男と女が仲いいと、どうして相合傘を書くの?」
といじ悪な質問をしてきました。
母が一瞬考えていると、ほくそ笑む木島くんでしたが
「それはね……雨風から女の子を守ってあげたいと思う男の子の気持ちが傘なんじゃないの?」
と言うと、木島くんは自分を当てはめて想像したのか、顔を赤らめて「ふう~ん」と言っただけで、駄菓子を買い始めました。
店内にいた女子高生が
「おばさん、うまいこと言うよね。感動したわ~」と言い、木島くんに、
「ねぇ、キミさ、おばさんから大切なこと習ったんだから、カッコいい男にならないとダメだよ~」と言いました。
ちょっと上から目線の口調でしたが、木島くんも負けずに、
「俺、もう十分カッコいいから……ねぇ、おばさん?」
と母にウインクして見せました。母も大きく頷きます。
「その通りだよ。木島くんはカッコいいよ。男気はあるし、女の子にモテるんだよね」
想像以上に褒められた木島くんは照れくさそうな表情を浮かべながらも、女子高生に向かって「俺に惚れるなよ~」とおどけた口調で交わし、店を出ていきました。
木島くんを見送った女子高生が母に言います。
「あんなに目つきの悪い子でも、おばさんは可愛くてしょうがないんだね」
「可愛いよ。人間って、幸せになれば、いつだって目つきも顔つきも優しくなるんだから……あの子だって絶対に大丈夫だよ」
母の言葉に彼女は表情を曇らせました。
「おばさん……あの子、幸せじゃないの?」
「ああ見えて、結構苦労しているんだよね。でも、そのうちガールフレンドができたら、あの寂しい目つきだって変わるんだよね。アンタだって、ボーイフレンドができたらさらに美人さんになるわよ」
照れながら
「おばさんって、みんなに優しいんだね」
と言った女子高生は、不意に右手を高々と上げました。そして、
「みかどは、永久に不滅です!」
と巨人軍の長嶋選手の真似をして宣誓したのです。
これには母も、
「あらっ、お嬢さん、嬉しいこと言ってくれるわね。おばさん、涙が出ちゃうわ……」
と大喜びでした。
みかどは『永久に不滅』――当時のお客さんだけでなく私もそう思っていました。