そして施設長の私としては、まずは、どのような意見が出るのかは分からないが、「高齢者施設に入居するということは、入居者の皆さんはある種、ひとつ屋根の元で家族になることではないか」と考えました。

そして、その家族が亡くなったのであれば、「ここで堂々とお別れの会を開催する」ことは、今後の施設運営において職員にとっても、入居者にとっても非常に大切な経験となるのではないかと考えました。 

このような自分自身の考えから、ご家族からの願いを受け止め、当然加藤さんのお看取りをしっかりと行った後、お別れの会を施設内で実施するために最善を尽くそうと決心しました。

そして、この相談があった数日後、加藤さんは当施設において、スタッフやご家族に見守られながら、安らかな表情で天に召されていきました。

さあ、今回は、ここからがある種、施設長としての初めての試みですが、自分としては、施設内でのお別れの会の準備に全力で取り掛かりました。

この中で、施設長の私に対して、加藤さんのお嬢様から「亡くなった私の母のために弔辞を読んで欲しい」と要望をいただきました。これについては、私はこの老人ホームの施設長として、そしてこの施設の家族として、喜んでご要望にお応えしようと考えました。

それから時間の合間、合間を縫って、在りし日の加藤さんのことを思い出しながら弔辞を書き上げました。私なりにしっかりとしたものを書き上げることができました。事前に加藤さんのお嬢様にも弔辞の内容をご確認いただき、ご満足をいただけました。あとは、実際にお送りする会の会場の準備をしていく段階となりました。

ところが、ここで思わぬ反応が出てくるのです。

この施設の入居者で、私も日頃から特に懇意にさせていただいていた佐々木さん(仮名)から、お話があるとのこと、お部屋に呼び出しを受けたのです。

佐々木さんは、「この施設内で加藤さんをお送りする会をするのは反対だ」という内容のお話でした。この佐々木さんは、生前の加藤さんとも人間関係は比較的良好でした。つまり加藤さんとの関係で嫌だというわけではないのです。

お話の内容は多岐にわたりましたが、要は、これからも同じ施設内で生活をしていく佐々木さんは身近に生活をしていた加藤さんがお亡くなりになったという事実に、ご不安の気持ちが大きくなったのでしょう。私は佐々木さんに自分の素直な気持ちを伝えました。