プロローグ

朝も早い時間に何事だろうと思いながら青木は椅子から腰をあげた。入港後、作業の打ちあわせなのか。船の現状から急ぐ整備の仕事もない。突発的な作業が入ったのだろうか。船体中央の通路を取り船橋への階段をあがった。船橋に行く手前のOICで増田航海長が待っていた。

「ボースン、六区からの要請ですぐに松山に来てほしいとのことらしい」

増田は受けたばかりのファックス用紙を見せた。青木はファックス用紙を手に受け取って見ていた。

第五管区海上保安本部警備課長からなのか……直感した。松山からの要請である。第六管区海上保安本部警備課長の関口経由であることはわかっていた。

「松山ですか。なんの用件だろうか?」

「特に詳細はきいていないが、松山の案らしい」

「急な話ですね。段取りはどうですか、あと二時間もすれば田辺に入港するのでしょう。それからでもいいと思うが……」

「いや、急用らしい。もうすぐ関西空港保安航空基地のMH五百三十二が来る。HRでピックアップしていってくれないか?」

派遣するのに航空基地からMH五百三十二がすでに飛び立っているのか。そんなに急ぐ用件なのか。取り急ぐ用件もいまはない。

「特に用事もないしいいですが」

「あとは、小出航海士にまかせるから。頼む」

入港後の作業は、直近の部下である小出航海士にまかせればいい。必要とする六区の作業はいったいなんだろう。

部屋にもどると制服を脱いで青と黄色主体の救難服に着替えブーツを履いて所要の物品を確認していた。携帯電話と多少の額のはいった財布である。最低限の着替えを用意し、再度船橋にあがりOICで待機していた。

急な要請なのか、すでに関西空港保安航空のMHが飛び立っているのか。六管区松山でいったいなにがあるというのだ。救難服に身を包み青いアポロキャップを被っている。ゆれるデスクに手をついて一点を見つめている青木だった。