序章
4 本文書の構成
第1章では、ヒトの身体の情報処理機能を概観し、それと接する機械がどうあるべきかの基礎データにする。
第2章では、言語と文字について、ユーザー・インターフェイスにかかわる特質を見る。
第3章では、従来のコンピュータの問題を分析する。
第4章では、ヒトの身体に向き合い、意図レベルでやり取りするようなコンピュータを考える。
序章のまとめ
・本文書は、コンピュータの利用者の広がりに応じ、誰でもコンピュータを利用できることを目指す。そのため、ヒトがコンピュータを操作するという関係性を、会話する関係性に変えるべきである。また現在のグラフィカル・インターフェイスよりも、ヒトの生体能力を生かした身体込みのインターフェイスになるべきである。
・ 道具はヒトの能力に調和したとき、ヒトの能力を拡張する。拡張されたヒトの能力で、道具も進歩する。道具とヒトの能力は相乗効果を持つ。
・現在のコンピュータは、ヒトが生得的な能力、身体的訓練、社会的教育で、自然と扱えるものではない。その意味で、まだヒトの能力とは調和していない。
・コンピュータは、現代の利用者層と用途に合わなくなっている。
・ヒトが道具を操作するという関係よりも、ヒトがヒトと会話するときの関係のほうが、インターフェイスとして望ましい。
・機械道具がヒトと触れるとき、ヒトはカラダ全体を使い環境と会話する。コンピュータは、ヒトの身体とやり取りしなければ目的を達成できない。コンピュータは、ヒトのパートナーとして位置付けるべきである。
・ヒトが現在のコンピュータを操作するときのインターフェイスの歪みを除き、会話的な関係にするための、ハードや技術はすでにある。今のインターフェイスはおかしいと、見方を変えてデザインをすればよい。
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第1章 ヒト生体の情報処理
1 概観
ヒトの生体機能を見ていく理由
コンピュータは、エリートの知能の拡張のための道具であった。ヒトは、従来の道具と同じように、コンピュータを操作する。これらの考え方は、誰でもコンピュータを使う時代に合わない。ヒトとの会話をモデルにして、インターフェイスをデザインしたほうが良い。
ヒトの意図レベルでやり取りをし、ヒトのカラダの能力をそのまま受け止め、それに反応する。そのために、コンピュータはヒトの生体の能力と特徴を尊重すべきである。むしろ、ヒトの力を引き出す関係であってほしい。
この章では、ヒトが生物として世界に対処するときの生体情報処理([杉江昇、大西昇,2001][福田忠彦,1995]など)を見ていく。
そのために、生物史[クリストファー・ロイド,2012]、生物発生学[ 岩堀修明( いわほり のぶはる),2011]、脳神経学、認知心理学[箱田裕司(はこだ ゆうじ)、都築誉史(つづき たかし)、川畑秀明(かわばた ひであき)、萩原滋(はぎわら しげる),2010]などから参考になる知見を拾い、概観する。