｢さあ､話がまとまったところで､朝ご飯を食べてしまいましょうよ｣
二人は食事を続けながら､今日の予定を考えた｡
｢ねえ､朝は自宅で音楽でも聞きながらゆっくりして､午後は新しくできた美術館にでも出かけるってどうかしら｣
｢いいよ｡でも､夕食はまた君の料理を食べたいな｡そんなに張り切らなくていいから｣
｢いいわよ｡では､ランチは外でということで｡美術館の近くにしゃれたレストランがあるのよ｡少し混んでいるかもしれないけれど｣
｢フレンチかい｣
｢創作料理なんだけど､けっこういけるのよ｡前にお友達と行ったことがあって､気に入ったお店の一つよ｣
｢よし､ではそこにしよう｣
美紀と健一は仲良く食事の後片付け｡
｢ねえ､『はやぶさ』っていう映画があったでしょ｡あのサウンドロラック盤を買ったのよ｡ピアノ演奏は､盲目のピアニストの辻井さん｡とても壮大で良い曲よ｡ちょっと聴いてみて｣
美紀はタオルで手を拭きリビングに行った｡コンポのスイッチを入れると､心地よい音楽が流れてきた｡美紀がソファーに座ると､片付けが終わった健一も横に座った｡
｢美紀｡一週間の同居の実験が終わったら､真剣に結婚のこと考えてくれるかい｣
｢そうね､考えてみるわ｡でも､仕事はやめないからそのことはいいのね｣
｢いいよ｡将来子どもができても産休や育休を活用すればいい｣
｢さあ､十時半になった｡出かけようか｡昼過ぎまで美術館を見て､ちょっと遅いランチというのはどう｣
｢いいわね｣
電車を乗り継ぎ､小一時間で美術館に着いた｡休日の午前中にもかかわらずたいして混んでいなかったので､ゆっくり楽しめた｡美紀は絵が好きで､時々この美術館を訪れる｡イスに座り絵を観ていると､心が落ち着くのである｡いや､絵を観ているばかりではない｡
いろんな考えごとがあると､ここに来て､静かに考えるのである｡日常の喧騒を離れ､私語もほとんど聞こえない美術館の中は格好の思索の場である｡
｢ねえ､君はどんな絵が好きなの｡僕は､自然を描いたものが好きなんだ｡人物画とか､抽象画は苦手だな｣と健一｡
｢私も同じよ｡よかった｣
｢僕のところにある､湖のある絵があるだろう｡ああいうのがあれば､小さいのを買って､寝室にも飾りたいと思っているんだ｣
｢すてきね｣
美紀は､二人で絵を観ながら肩を寄せ合っている姿を思い描いていた｡
｢おや､今日は何か特別展をやっているよ｡覗いてみようか｣
