「どうかな? 田沼さんから見て、あの人は」
「もちろん、あんないい人を逃しちゃダメですよ。わたしは合格点をつけるわ。しばらくの間は引き継ぎで仕事を教えたりするから、わたしとしても一緒にいてソリが合わない人だとやりにくい。小出さんみたいに素直でおとなしい真面目な人がいいわ」
普段はやや毒舌な田沼さんが、小出美夜子のことはたいそう気に入ったようでした。これは好都合です。
「あの田沼さんが太鼓判を押したから」
と言えば、所長に対して小出美夜子を採用した大義名分ができます。小出美夜子が類まれな美女であることが採用の決め手になったとは思われたくなかった。しかし、私のその心配は完全な杞憂に終わりました。
終業後、本社で研修中の所長に電話で小出美夜子の面接のことを報告すると、
「佐伯さんと田沼さんが二人一致で合格なら」
とあっさり承諾してくれたのです。
小出美夜子には翌日・火曜日の朝一番で採用決定の電話を入れ、早速水曜日から出社が決まりました。一刻も早くご両親の介護に集中したい田沼さんにとっても、この早い決定は嬉しかったようで、優秀な後任者を自らの手でみっちり仕込み、自分がいなくなってからもこの月ノ石営業所に何の支障も残さないと張り切っていました。
「こういうふうにトントン拍子に物事が決まるっていうのが、幸先(さいさき)がいいことの何よりの兆候なのよ」
田沼さんはそう言ってベテランらしく豪快に笑いました。もちろん小出美夜子本人も採用が決まったことをとても喜んでくれました。
「ありがとうございます。田沼さんの足元にも及びませんが、一日も早く仕事を覚えて皆さんのご迷惑にならないよう頑張りますので、よろしくお願いいたします」