ガラガラと腹に響く音を立てて扉が開くと、黴と埃の匂いが鼻腔に拡がった。ニ十畳ほどの部屋には所狭しと物が積み上げられ、何が何だかさっぱり判らなかった。懐中電灯に照らされて壁や天井に凸凹と出鱈目な影が伸び、まるで廃墟のようだった。

だが目が馴れると、そこにはそれなりの秩序があるのだと知れた。左手には何段か棚が吊ってあり、岩石の小片と化石などが並べてある。奥には小さな窓があって向かいの病棟が見えている。壁に沿ってテーブルが並べられ、鳥の剥製だのアルコール漬の小動物だのが置かれている。その手前には時代がかった大型の地球儀が載っていた。

中はしいんと静まり返っていた。警備員はゴソリと音を立てて中へ進んだ。右手には天井まで届く大きな木製のラックがあり、硝酸カリウム、水酸化ナトリウム、硫酸アンモニウム等々の薬品が錠の降りた硝子戸の中にびっしりと並んでいた。

「こんなにたくさん何に使うのかね?」

思わず彼は呟いた。アルコールランプなども四五十並んでいるが、どれもこれもガラクタばかりという気がした。何だか馬鹿馬鹿しくなって鼻を鳴らした。

だが一歩進んで右手の物陰に目がいった時、危うく声を上げるところだった。そこに化け物が立っていたのである。一瞬身体が硬直したが、よく見るとそれは二体の人体標本なのだと知れた。一体は半身筋肉を剥き出し、残りの半身を血管と神経に隈どられた標本で、もう一体は全身白骨の姿だった。暗がりの中で不意に目に入ったので化け物じみて見えたのだ。

まだ心臓がドキドキしていた。何だか喉元にまでせり上がったような感じがした。

「ビックリしたなあ、もう‥‥」

警備員はそう呟くと、しげしげと二つの標本を見つめた。これも年代ものらしく、全体に汚れて黄ばんでいた。

「こいつめ」

彼は骸骨の鼻先をピンと弾き、暫らく辺りを見回していた。次いで「ふんっ」と鼻を鳴らすとガタピシ音を立てて通路へ出た。そしてカツコツと靴音を響かせて去っていった。懐中電灯の明かりが右に折れ、やがて靴音も消えるとまた校内には静寂が戻ってきた。

しいんと静まり返った通路では再び得体の知れぬ呟きが聞こえ始めた。

「‥‥ヨセヨ」

「イヤ‥‥ハ‥‥東京ニ行クヨ」

「‥‥不味イッテ、無理ダヨ」

「ズット考エテ‥‥ンダ。ズット前カラ‥‥」

何か言い争っていたらしい。だが低声で話しているのでよくは判らなかった。

「オイ、止セッテ‥‥」

「モウ‥‥決メタン‥‥」

標本室の扉が少し開いていた。警備員が忘れたらしく鍵もかかっていなかった。まだ諍いをする声がボソボソと響き、いつまでも決着がつかないように思われた。そしてそのまま夜は更けていった。

【前回の記事を読む】【コンテスト大賞作】幽霊が出るという噂があった校舎を歩いていると、ヒソヒソと話し声がしてきて…。