「あぁ、そういうことか」
義兄は納得したようだ。
「普通、家族にでも捜査上の秘密は洩らさないことになっているのだが……」
前もって説明しなくても分かっていますよと、あずみも殊勝な顔つきで次の言葉を待つ。啓介も濁しつつ答えた。
「櫻井氏のその方面の捜査も、きちんとされているので大丈夫だ」
「は? その方面って?」
義兄も言いにくいらしい。ま、義理の妹には言えないか。
「つまり、そういう女性がいるかどうかは知らないが、今回の火事には関係がないということは分かっている」
つまり、櫻井氏にはそれらしい女性がいたことは確かなようだ。だが、火事があったその時間には、女性にはちゃんとしたアリバイがあったということだろう。
「ふうん。じゃあ、ほかに会社の人とか、その時間に呼ばれたってことはないの?」
「それなら、その前に会社に来ているのだから、わざわざ場所を移して実家で用事をすます理由もないだろう」
確かにその通りだ。会社の人でもない。女性関係でもない。もちろん家族でもない。
「それより……」
啓介のほうでも、あずみに聞きたいことがあった。
「櫻井夫人は、再捜査は必要ないって?」
「うん、そうだけど……」
「そうか」