やはり年の功だとあずみは思った。娘の真琴が、息巻いて再捜査依頼を持ち掛けようとしているのも見抜いていた。

「はい。実際、再捜査するようなことにならないほうがいいですものね」

あずみも大きくうなずいて答えた。

他殺だ、怨恨だなどという結末を、真琴としても本心から望んではいないのだろう。櫻井家をあとにするとき、あずみの心境も、結果これでいいのかもしれないと思うようになっていた。

その後、帰りも快適な車であずみは家まで送ってもらった。

「……ということなので、再捜査はいらないって」

櫻井家を訪れた二日後、珍しく非番だった啓介をつかまえて、あずみは夫人から聞いた話をやっと義兄に報告できた。

「真琴のお母さんは、ご主人の失火で納得している感じだし、事件の再捜査ともなると色々と大変だから気を遣ってくれたのよね」

啓介はテレビのニュースを見ながら、そうかと答えたきりだ。今しがた聞いたあずみの報告を聞いていたのかいなかったのか、反応が薄い。

「ねぇ、お義兄さん。さっきから聞いてる?」

「ん? あぁ、聞いているよ。再捜査はいらないってことだろ?」

「うん、そうよ」

あずみはうなずいた。続けて切り出す。

「それで、例の四時間については、個人的には気になることがあるんだけど……」

「なんだ?」

啓介も自分の考え事を中断して向き直った。

「真琴のお父さんがその四時間の間に、誰かとそこで会っていたってことは考えられない?」

「誰かって誰だ?」

あずみも言いにくい思いはしたが、一般的には誰だって考えられることだ。

「だから、例えば……女性とか」