第四章 風が吹いて
お買い物ツアー
私はこのツアーの個人企画者だ
ツアーコンダクター・運転手・その他雑用係
一年に数回催すお買い物ツアー
ツアー客は今や友人だがかつての恩人様たち
何年も慣行しているうちに
老人の個人ツアーと称しても十分になってきた
朝 九時
車の後部に空のダンボール箱を
数箱積んで順に迎えに行く
今回 季節は晩秋 冬野菜がおいしくなる頃
高速道路を降りて一番に寄るのは玉子屋さん
着くともう長蛇の列
並ぶのも苦手になってきた年齢だがそこは欲得
じっと並んでワンシート三十個の卵を数段分購入
次は目的地の中の一番遠い道の駅までドーン
そこに並ぶ野菜以外の季節のものを次々買い
そこから引き返しわが町のJAの直売所
ブドウを出荷するので店員さんはおなじみ
「こんにちは 恒例のお買い物ツアーでーす」
白菜一個二百円 大根一本百五十円 キャベツ一玉百円
まだ朝露のついているような地元農家さんの野菜で
ダンボール箱は埋まっていく
昼は小さな町のおいしい処で
腹の満喫とおしゃべりの満喫をする
最後はツアー客も大好きな古布絵アートをする丈子さんの店に立ち寄る
こだわりの食器 こだわりの衣服 あーどれも素敵だ
決して妥協しない品揃えも店の雰囲気も好きだ
店主とのお喋りも心のごちそうだ
そこで気にいった服や食器があれば購入
何もかも満喫して
播州の晩秋を堪能しながら一路神戸へ
なんせダンボール箱てんこ盛りだから
ドアツードアで自宅まで送って終了!
このツアー客は昔お世話になった恩人様たちだ
兄の死亡 母の病気 父の加齢で
農園維持に行き詰まる私の悩みを聞いた先輩の一言
「ブドウ作りやめんときー! 手伝ってあげるから」
アッという間に始まった手伝いの輪あの人 この人 知らない人まで
時には十人くらいの声がブドウ畑に広がった人が入れ替わりながら十年間くらい
手伝いの輪の中でブドウ作りを維持してきた
年に三回一番人手のいるときこの田舎まで足を運んでくれた
小さなぶどう園 日当は出せず お礼は
おひるごはんと完熟ブドウ一箱だけだった
やがてみんな年を取りリタイアになったが
一番苦難の時に助けてくれた人たちだ
もう一人農業になったが 子や婿殿たち
地元の手伝う人の定着 時にはシルバー雇用
どんな作業もこなすし、機械も使う顧客も田舎ではなく都会に広げた
しかし
あの時がなければとっくに農業をあきらめていた
企画・コンダクター・運転手・雑用係車に乗れている間は続くこのツアー
「♪縁は続くよ どこまでもー♪」