六.計画発表
水産実習室では、水産クラブの会合が行われていた。
内燃は、大河、川原、出丸に、山川の計画を告げた。
「そりゃ面白いな。サケが農場に遡上する酪農家なんて聞いたことがないから、俺たちも興味を持っていたんだ」
そう言った出丸の目は、探究心で輝いている。出丸は乗り気だ。
「どうだい、中渡牧場の湧き水と小川がどうなっているか、見に行ってみないか」
川原もうなずく。
「そうだな、富阪先生からまた電気伝導度計を借りて、測定してみると面白いかもな」
大河は、中渡牧場を見学に行くことによって、何か突破口が得られる予感がした。そしてこう決断した。
「迷惑じゃなかったら、俺たちも見に行こう。中渡牧場に」
こうして、山川、内燃、大河、川原、出丸が中渡牧場を後日訪れる段取りとなった。
この後、山川はもう一度緊張しながら千尋に会いに行き、山川と酪農科三年の内燃、水産科四年の大河、水産科三年の川原と出丸の五人で訪れたいことを告げた。
次の日の朝、千尋は、露場で気象観測をしている山川のところにやってきた。
「おはよう。山川君」
山川はびっくりして、手にしていた野帳を落としそうになった。
「おっ、おはよう中渡さん」
山川の耳はもちろん真っ赤である。
千尋は千尋で、少し頬を赤らめている。
「昨日頼まれた件、父と母に相談してみたんだけども、今週末いいよって、言ってくれたわ」
この言葉を聞いて山川は少しほっとした。
「ありがとう。早速先輩方にも伝えるよ」
それじゃあ今週末待っているね、と千尋は言うと、他の女子に見られていないかどうかちょっと心配しながら、しっかりとした足取りで足早に教室に向かった。
七.中渡牧場
牧場のニレは、すっかり新緑の季節となり、シラカバの淡い緑色の葉から陽が差し込んでいる。カシワも厚く大きな葉を広げつつある。
牧草はスプリングフラッシュの時期を迎え、勢いよく伸びようとしている。その上を、三〇頭ばかりの牛たちが草を食(は)みながら移動している。
空では、オオジシギがけたたましく叫びながら急降下と急上昇を繰り返している。
牧柵の上では、ノゴマやノビタキがちょこんと乗って、縄張りを主張するようにさえずっている。