鳶加藤
怒る闘次郎に、
「まあまあ。そう目くじらを立てなさるな。牛の機嫌が悪かったのであろう。牛の一頭や二頭で驚いていては、戦いはできませんぞ。フフフ」
同じく上忍で諜報活動を得意とする兵衛 (ひょうえ)が、闘次郎をなだめる。
「しかしながら……軍律は厳しくしなくては、集団はまとまらない。今、牛を管理している者は誰だ?」
兵衛は、その冷徹な顔で出発間際の風魔一党全員を見渡す。
「申し訳ございません。担当は、我が班の鳶(とび)加藤です」
中忍の一人が、下忍である鳶加藤の頭を下げながら前に出た。
「致し方ない。今回の任務に鳶加藤は連れていけない。鳶加藤は、留守部隊とする。そのように対応させよ。それで良いな、列衛門(れつえもん)」
鳶加藤の所属する組の隊長である上忍の列衛門に、兵衛は許可を求めた。
「それで良い」
武器の〝忍びの鎌〟を持ちながら、上忍の列衛門は首を縦に振った。
「何をぐずぐずしているか。ここ風間村から沼田城までは、普通の人で五十時間掛かる距離だぞ。我々忍者でも三十時間は掛かる。明後日の夜八時までに着けなくなるぞ(一日十時間歩き、休憩は二時間。途中で二泊し、三日目の夜八時に沼田城に着く段取りであった)」
忍者頭目の四代目風魔次郎太郎は、顔に苛立ちの表情を浮かべていた。
「はっ! 準備は万端にございます」
上忍の列衛門が、中忍に鳶加藤を残していくように指示をしながら、応えた。
朝八時を少し回った時刻に、風魔一党は沼田に向けて風間村を出発した。