「ああ、あなたが城島さんか。上から話は聞いています。優秀らしいですね。よろしくお願いします」
「いやいや、優秀だなんてとんでもない。あれですか、上というと、署長からですか?」
「署長? 違いますよ。本部長ですよ」
「本部長ですか!」
「ここで嘘を吐いても仕方がありません。あなたを頼るよう指示を受けています」
「本部長がそんなことをおっしゃっているんですか! これはまた嬉しいかぎり! ご不明な点があれば何なりとおっしゃってください!」
「よろしく頼みますよ」
佐伯は笑顔で城島と握手を交わした。お前のことなんか誰が気にするか。そもそも角田本部長がお前のような雑魚を知っているわけがない。一〇年以上前に人事一課にいただ? じゃあお前は今まで何をしていたんだ。警察署をグルグルと回るだけの人工衛星のくせに、俺と一緒にするな。
「城島補佐、私はこれから署長に挨拶してくるから」
「どうぞどうぞ、いってらっしゃい。署長も首を長くしてお待ちになっておられますよ」佐伯は辞令を手にして署長室に向かった。
「署長、入ります。佐伯でございます」
「おう、来たか。そこに座ってくれ」
佐伯は署長の木下に通されて応接用のソファに腰掛けた。
「君がかの有名な全能の神、ゼウスの息子か。警務部のエースが刑事課長とは、角田さんも面白い配置をするものだな」
署長の木下も警務部出身で、角田本部長とは旧知の仲だ。しかも角田のあだ名「ゼウス」を知っているくらいだから相当な仲だ。
「はい、私自身も戸惑っておりますが、本部長から捜査経験を積んでこいと肩を叩かれまして。
精一杯やらせていただきます」
「うん、よろしく頼むよ。ここはいい所だぞ。管内は比較的穏やかだし、刑事課も和気あいあいとして良い雰囲気だ」
「そうですか。それは何よりです」
「ただな、君は刑事部門が初めてだから言っておくが、刑事課にはクセのある輩が結構いるから、それに振り回されないように淡々と業務を推進してくれよ。君は一年位したらまた警務部に戻るんだろうから、それを頭に入れてな」
「承知しました」
「よろしい。詳しいことは城島補佐から業務報告を受けてくれ」佐伯は木下に頭を下げ、署長室を後にした。
佐伯が刑事課に戻ると、城島を囲んで数人の刑事が何やら話をしているのが目に入った。
「補佐、何かあったのか?」
「ああ課長、今ちょうど署長室に行こうとしていたところですよ。まだ詳細はっきりしませんが、交番勤務員からの連絡で、小学一年の女の子なんですが、学校が終わっているのにまだ帰ってこないっていう訴え出を受けたらしいんですが」