考えてみれば大統領がウィンター氏に指示したことなどは当たり前の話だ。米国は日本人がたとえ五十年米国に住もうと、米国の大学を卒業しようと、当人を

「知米派だ、親米派だ、長年米国に住んで米国を悪く思うはずがない、米国大好き人間人間になって米国寄りの判断をするはずだ」

などと自分に都合の良いように勝手に解釈はしない。解釈するとすれば、むしろ逆に、

「長年米国に住んでいるから要注意人物」

とFBIに警戒マークを付けられるのがオチだと我輩は思う。

実は我輩は日本を出発する時点からこの点が気に掛かっていた。なぜなら、我輩のご主人が大使受諾の件で色んな人たちに相談していた時分、

「大統領とは同じ海軍仲間で知り合いだから、アポも簡単に取れ、気安く会えて、差しで話ができ、率直に物も言えるだろうから貴兄が一番適役だ」

と言って後押ししてくれた日本人が大勢いたからだ。古代外相もその一人と言えた。このような人の言うことを真に受けて有頂天になった我輩のご主人の尻軽については以前苦言を呈した。マスコミの無責任もさることながら、そのように考える能天気な人が日本には大勢いることの方が問題かも知れない。

こういう背景もあって、実は東海岸に向かう列車の旅の途中、我輩のご主人に、

「長年米国におられたのでご存知だと思いますが、今回の職務では必要以上に大統領との関係を誇示したり、過大な期待を掛けたりすることは避けた方が賢明だと思います」

と話してみた。すると我輩の主人は

「うーむ、それはどういう意味かな? 儂は今回の職務を遂行する上では大統領との関係を最大限活用するのが有利だと思っているが、違うかね」

とまたもやムッとした顔で反問してきた。

我輩の話を意外だと受け取られたようだから、こりゃ、少し丁寧に説明を加える必要があるな……と思いながら、サンフランシスコを出発する際に調達しておいたナパの赤ワインを我輩の主人のグラスに注ぎながら窓の外にちらっと目をやった。外は白銀一色の世界だ。さすがにロッキー山脈から中西部になると冬は厳しい。ところどころに立ちすくんだように見える雪を被った大木が飛ぶように流れ去る。

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