バザー・ナーダ(ナンを売る尼僧など)
「…。長年に亘って私たちナーダ・フローラのスタッフによって、調査され、探索され、踏査されて、ついに発見されたものでございまして、しかも、伝説上名高い名花であることが判明したのでございます。それを今ここに一枝お持ちしております。
さあ、それでは、この花をご覧になってくださいませ。
これこそは釈迦入滅の前、最後の説法の時に居並ぶ何千もの弟子たちを前にして、四十九年一字不説と言って、後は沈黙、やがて、おもむろに一枝の花を取り上げ、頭上に高々と掲げたのでございます。そしてそのまま、お釈迦さまは眼前の弟子たちの顔を一人一人見つめて行ったのでございます。
すべてのものはただ呆然とするばかり、ただ無言、会場はしいんと水を打ったごとく静まり返っておりました。その時です。折しもお釈迦さまは弟子たちのうちの一人摩迦迦葉(まかかしょう)さまと目を合わせました。すると迦葉さまは花を見つめつつ、にっこりと微笑したのでございます。それを見て、お釈迦さまもまたにっこりと破顔微笑されました。そして、お釈迦さまは迦葉さまに法を伝えたということでございます。
お釈迦さまが拈華微笑(ねんげみしょう)した時の、まさにその時の花こそ、この一枝の花にほかなりません。
とくとご覧になってくださいませ。これこそはその時の沙羅双樹の花でございます。言い伝えでは、拈華微笑の花は金波羅華の花だと申すものもございますし、優曇華の花だと申すものも、菩提樹の花と申すものも、蓮の花だと申すものもございますが、真実は、この沙羅双樹の花に間違いございません。
お釈迦さまは死期を悟られて、故郷、北の方を目指したのでございます。そして、故郷の花たる沙羅双樹の花の下でお亡くなりになられたのでございまして、最後の説法の時にも、その沙羅双樹の花を、一枝手折り手に持ちつつ、説法の段に上られたのでございます。
これはもちろん、その時のお釈迦さまが手に持たれた花そのものではございません。
ですが、その時一枝手折れた沙羅双樹の木の種を伝え伝え、この国にまで伝わった沙羅双樹の木が、まさに山中の古寺であり、わが国華禅宗の総本山別院たる白蓮精舎(びゃくれんしょうじゃ)の庭に発見されたのでございます。そこから一枝切り取って、ここにもたらされたものがこの沙羅双樹の一花にほかならないのでございます。