曽我兄弟、継父の元で育つ 兄九歳・弟七歳
――こんな形で、残酷な事実を知られたくなかった。せめて、もうしばらくは隠しておきたかったのに、この上は説明せねばならないだろうけれど、しかし、こんな場所ではとても言えない……。
それと知らぬ弟は、兄の様子にますますうろたえる。
「なぜ黙っている兄様……。なぜ答えない……」
哀れな兄弟に、平の家人の一人が追い打ちをかけて言う。
「可哀想に、知らぬのか。あんたがた兄弟二人は曽我殿の子ではない。真の父御は河津三郎という伊豆の人だったが、狩りの最中に殺されたのだ。それで、母御はあんたがた二人を連れて曽我へ嫁いできた。さればこそ、皆、あんたがたを連れ子だ、継子だと言っているのだ。知らなかったのは、箱王殿、あんただけだ。誰もが皆知ってることだ」
――これを聞いた時の箱王の衝撃と動揺は、とても筆に尽くせない。人一倍腕白な質の少年が、わなわなと震えて兄に取りすがった。弟の取り乱す様子を見て、兄もまた切なさに胸が張り裂ける思い。
平の子供たちばかりか、家人たちまでが囃し立て嘲笑う中を、一萬は弟を抱えるようにして立ち去り、家に駆け戻っていったのだった。
……座敷に入ると、箱王は
「兄様!」
と、兄に食ってかかるようにして叫んだ。
「あれはどういうことです。兄様は知っているのでしょう。平の家人共が言っていたのは本当のことなのですか!」
一萬も、今は覚悟を決めて説明する。
「それは――それは本当のことだ……。箱王、心して聞け」