表情も暗く父の死のことを語れば、箱王はみるみる青ざめ、しまいには床に突っ伏してむせび泣いた。

――なぜ、自分たち二人だけが母と暮らせないのか。なぜ自分たちだけが、家人にすら侮られるのか。幼心に疑問に思っていたこと……それは、耳を疑う事実が原因であった。

やがて、一萬は辛い過去を話し終えた。

「箱王、お前はこれまで何も存じていなかったが――とにかく本当の父上がいないことは辛いことだ……」

「ああ――兄様よ。曽我の家で、わたしと兄様は連れ子の身の上だったのか」

うちしおれて、わっと声を上げて泣き崩れる弟を、兄はひしと抱いて慰める。

「箱王、お前が泣くのも無理はない。悲しいのはこの兄も同じことだ。父上のないことを思えば、わたしでさえ泣きたくなる。ましてや、お前はわたしよりも小さいものを……。箱王よ、無理とは思わぬ……」

……一説によれば、この後、箱王は母の元へ走っていって

「母上、わたしと兄様の父上は、ずっと以前に殺されてしまったというのは本当ですか。わたしたちは、曽我殿の本当の子ではないのですね?」

と、問い詰めたとされる。

あまりに唐突な苦しい問い。堅く閉ざせし秘密は、何人(なんぴと)によって暴かれしか。母満江(まんこう)はひしと胸にこたえて、にわかには答えることもできない。

「何を言うのです! 曽我殿が真の父上ですよ。そんな根も葉もないことを……」

と、誤魔化そうとしたが、箱王は小さい頭をしきりに振って、聞く耳持たない。

「わたしと兄様の父上は、河津三郎とおっしゃるのでしょう! 曽我殿は養いの親だと聞きました!」

――母は「そんなことを言うと、曽我殿に恨まれるから……」と必死になだめようとしたけれども、兄に育てられたこの少年にとっては、母よりも兄の言葉の方が重い。

「いいえ! 父上は死んでしまったのです! 兄様がおっしゃいました。工藤祐経が父上を殺したと!」

「おお――箱王!」

母は思わず顔を覆って突っ伏した。

その日は何とか箱王をなだめ、一萬にも「くれぐれも曽我殿をまことの父と思って大人しくしなさい。でないと憎まれるから」と言い聞かせたけれども――。

まだまだ幼いと思っていた箱王でさえ、本当のことを知ってしまった……。この事実は、彼女の心を否応なしに追い詰めた。

「平の(わらべ)たちすら知っていたとは。このままでは、この子らはこの先どれほどいじめられることだろう。いえ! それよりも、里で噂になり、河津の子供らをかくまっていることが知れ渡ったら、謀反人の末として、きっと殺される。ああ、どうしよう……」

こうして、思い余った母は人の口を怖れ、「以後、決して屋敷の外へ出るな」と、二人に固くいましめ、兄弟を曽我の屋敷から一歩も外へ出さないようにしてしまった。

【前回の記事を読む】もし平家に味方した祐親の孫をかくまっていると知られたら、どんな恐ろしい罰を受けるか・・・