母が入院したという病院に駆け込むと、ベッドに横たわる母の姿があった。しばらくぶりに見る母は、病のせいなのか、日々の暮らしの大変さによるものなのか、いっそう年を取り、やつれているように見えた。
しばらく母の様子を見ていると、担当の医師が来て病状を説明してくれた。命に別状はない、大丈夫だという話を聞いて、胸を撫で下ろした。私がいることに気づいた母も、喜んではくれたものの、
「仕事があるのだから、早く帰りなさい」
と言う。やはり生真面目な人なのだ。結局、私は一日だけ故郷にいて、翌日には神戸に戻ることにした。母の顔を見て安心したら、今度は早く神戸に戻りたいという思いが強くなる。現金なものである。
神戸の恋人
さて、熊本からの帰りの列車でのエピソードを一つ。
私はその日の夕方、熊本発の大阪行きの列車に乗り込んだ。始発駅なので席はガラガラであったが、突然たくさんの制服姿の女子高校生が乗り込んできたのだ。どうやら修学旅行の帰りであるらしい。
列車の中で、女子高生に囲まれたのだからたまったものではない。彼女たちがワイワイガヤガヤ、にぎやかにおしゃべりする中で、若い男が一人、ぽつんと座っているのだ。どうにも居心地が悪い。
列車は本州へと渡り、暗闇の中、神戸に向かってひた走る。夜の十時を過ぎた頃のことだろうか。やっと女子高生のおしゃべりが収まり、静かになった列車内で、ふと顔を上げると、斜め前に座っている一人の女子高生が静かに本を読んでいる姿が目に入った。
周りを気にせず騒ぎまくる女子高校生にはほとほと参っていたためか、静かに読書をする彼女の姿に心を惹かれた。旅の恥はかき捨てとばかりに思い切って声をかけると、彼女は愛想よく答えてくれた。聞くと、須磨にある女子校なのだという。自分も神戸の川鉄で働いていることを伝え、地元の店や好きな場所の話題となって盛り上がった。