■善意の輪
久しぶりに三人で公園に行くことにした。青空に木々の緑が眩しい。
少し行くと、三人の小学生が「お前が声をかけろよ」「お前だろ」「いやお前だろう」と押し問答をしている。
どうやら、街路樹のたもとにいる老人が気になっているらしい。母が「どうしたの」と声をかけた。
「あそこにいるおばあさん、認知症かな? と思う」
「どうして?」
「行ったり来たり、信号を渡りかけて引き返したり、おばさんどう思う?」
母は、「君たちえらいね、おばあさんのことを気にかけてくれてるんだ」。
少年たちは、まんざらでもなさそうな表情をしている。母が老人に声をかけた。
「どうかされましたか?」
きょろきょろして返事がない。その時認知症なのだと確信した。
少年たちに、「認知症みたいね、警察まで一緒に行く方がいいね」。
「僕たちも一緒に行くよ」
警察までの道中、少年たちは今学校で取り組んでいる課題について話してくれた。
「認知症の人が車に轢かれそうになったり、行方知れずになることが、学校でも話題になっている、僕たちが認知症かもしれないと感じる人がいたら、まず、声をかけてあげようってことになったの」
「先生が認知証の模擬患者さんになって、声のかけかたなんかを訓練してるんだよ」
紗莉は母と顔を見合わせて、深く頷くのであった。
〈このような取り組みを通して、人への関心が育まれるのよね、もっともっとこの善意の輪が広がるとよいのに〉と思う二人であった。
老人を警察に無事送り届けた少年たちは、警官に褒められて、満足し切った表情をしている。
紗莉と母も少年たちに「ありがとう、私達からも御礼を言うわ」。
手を振る少年たちに笑顔で応えながら「よいところに出くわしたね」。
母は興奮気味に言った。紗莉は、〈ささやかでもいい、手を差し伸べてくれる人が増えれば、障害者も家族ももっと住みやすくなるのに〉と、これまで経験してきたさまざまな場面を、思い浮かべるのであった。