「三階に『円い町』町民審査会というところがありますので、そこへ行って下さい」
「分かりました」
エレベーターで三階へ行った。晴美は何となく胸が騒ぎ緊張してきた。広告の営業をしていた頃を思い出すんだ、と自分を励まそうと懸命に心の中で叫んでいた。
ドアの右上には「『円い町』町民審査会」の表札があった。
ノックをした。「どうぞ」という柔らかい声が聞こえた。
中へ入った。
そこには調度品や本棚などは何もなく、ただ広い部屋の中央に椅子が一つ置かれ、その二メール離れた前に横長の机が一つある。そこに、五人の人たちがそれぞれ肘付き椅子に座っているのだった。彼らはきっと偉い人たちだ、と晴美は直感で思った。男性二人、女性三人である。
その晴美の直感は当たっていたが、なぜなのか、みんなにこにこ顔なのだ。こんなに笑顔の人たちを晴美は今まで見たことがなかった。これまではどちらかといえば、きっと怒ったような眼光が鋭くてきつい顔の人たちばかりに出会ってきたような気がした。
どうして、こんなに優しい顔の人たちばかりなのだろうか。
晴美はまず、そんな疑問を抱いた。
一番左側の女性は晴美に椅子に座るように左手で仕種をした。
座った途端に、晴美はますます緊張して体が固まってしまった。
「ようこそ、我が町へ」
真ん中の女性が言った。みんな、左胸に名刺大の名札をしているのだが、恐る恐るその女性の名札を見ると、〝リーダー・春恵〟と書いていた。
「ありがとうございます」
晴美は硬い表情を崩さず立ち上がって礼儀正しくお辞儀をした。
「我が町の町民になりたい人たちが年々増えつつあります。とても嬉しいことです。そして、できれば全員、町民になって頂きたいのですが、我が町はちょっと外の町とは違います。それで、町民になって頂ける人の条件をみんなで考えました。それは四つあります。その四つの条件を満たしている人のみに町民になって頂きたいのです。どうかご了承下さいね」
リーダーの春恵さんはとても穏やかな声で言った。
えっ、四つの条件があるなんて――。そんなことは、父親から聞いていない――。晴美はすっかり困惑してしまった。
二人の間には、長い沈黙が流れた――。