――その後の曽我十郎祐成すけなり。幼名を一萬。色白く、細身な体つき。優美な顔立ちの少年であったという。

不幸な子ほど知恵が勝ると言うが、一萬少年は父の最期をはっきりと記憶しており、この年齢にしてすでに、仇の工藤祐経すけつねのことや、母が自分たちのために再婚したこと、自分たちは連れ子であるために家族から隔てられていることなどを理解していた。

別に誰に教えられたわけでもない。生来利発な彼は、大人たちの噂話や、自分の記憶などを繋げて、徐々に知っていったのである。

「箱王に、いつ教えるべきか……」

日夜、一萬はそのことを考えては苦しむようになる。

曽我に移り住んだ時、まだ三つだった箱王は、実の父の記憶はまったくなかった。自分たちが連れ子であることすら知らず、曽我太郎を実父だと単純に信じ込んでいたのである。

それが、実の父は殺され、自分たちは厄介者の身の上だと知ったなら、どれほど悲しみ嘆くことか……。

「箱王には、まだとても言えない……。本当のことを知れば、どれほど嘆くだろう。いずれは知ることだけれど、せめて、もう少し大きくなるまでは……」

弟が可愛い彼はこう考えて、いつまでも事実を言えずにいた。

ところが、その年――治承三年(一一七九)の春。最も残酷な形で、彼らの身の上が暴露されてしまうことになる。

曽我の館のすぐ近くに、平(たいら)という家があって、その家にも大勢の子供たちがいた。折しもこの日、一萬と箱王はこの家を訪れたのだったが――箱王は近所でも有名な腕白小僧で、ひっきりなしに周辺の子供たちと喧嘩をしていたために、喧嘩で負かされた平の子供らは、箱王を恨んでいた。そこでこの時、日頃の腹いせとばかりに

「やいやい、曽我のもらわれ子め。連れ子のくせに」

と口汚く罵ったのである。

当然、箱王は反論する。

「何だと! でたらめを……」

「ハハ……。お前と一萬は継子ままこじゃないか。この父なし子!」

なおも悪口雑言を止めない子供らに腹を立て、箱王は兄の顔を振り仰いだ。

兄様あにさま、あいつらが、あんなひどいでたらめを言うのに――このまま引き下がっていいのか!」

箱王は生来きかぬ気の少年だった。その姿、骨太く溌溂とした顔つき。常に赤い顔が、すぐ頭に血が上る性格を表す。この時もまた、激しい勢いで兄の袖を引っつかんだ。

ところがどうしたことか――兄は青ざめた顔をして、凍り付いたように動かない。それも道理、一萬は弟の問いに、とても答えることができなかったのだ。

【前回の記事を読む】殆どの坂東武者が頼朝に従う中、1人源氏に歯向かった伊藤祐親