【前回の記事を読む】原因は理解不足…多くの日系企業が大やけどした「アメリカの制度」
第1章 小さな政府と[民活]――民事訴訟を促して社会問題を解決
福島第一原発事故
私が、米国独自の制度を日本人も深く理解する必要があると強く訴えるのには、もう一つ大きな理由があります。もし、これらの制度が日本にあれば、日本が大きく変わる可能性があるからです。
たとえば東京電力の福島第一原子力発電所の事故を例に取り上げてみましょう。
2011年3月11日に発生した東日本大震災では、東北から関東の沿岸に押し寄せた津波により多くの被害がもたらされました。死者・行方不明者は1万8000人以上にのぼりました。
東京電力の福島第一原子力発電所の事故では、津波によって電源が失われて原子炉の冷却ができなくなり、原発事故としては最悪と言われるメルトダウン(炉心が外に溶け出す事故)を発生させました。放射性物質が大気、土壌、海洋、地下水へと放出されました。
直接の負傷者は15人、被爆の可能性は従業員30人、住民88人となっていますが、近隣の住民10万人以上が避難することになり、事故から10年以上が経った2021年秋の時点でも約4万人の人が家に帰れずにいます。
また、事故から5年後の2016年3月、東京新聞は独自の調査で「原発関連死」を1368名と報道しています。避難等で生活環境が変わったことにより健康を害するなどで亡くなった人の数です。
当時、震災全体での「震災関連死」は2028人ですから、そのうち67%が「原発関連死」となります。2021年3月末時点での「震災関連死」は3774人に増加していますので、同じ割合を当てはめれば最新の「原発関連死」は2500人あまりになる計算です。
被害総額も膨大です。2016年の経済産業省の発表によれば22兆円でしたが、2019年春、シンクタンクの日本経済研究センターによれば、廃炉や汚染水処理、賠償、除染などでいずれも経産省の試算を大きく上回り80兆円を超えるとの試算でした。事故後の処理が計画通りに進んでいない現状を考えれば、さらに増えることは十分にあり得るでしょう。
この事故に対し、約30の団体が東電や国に対して訴訟を起こし、原告の総数は1万人を超えるとされています。中でも3650人という最大の原告団を持つのが、「『生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!』福島原発訴訟」――通称、「生業訴訟」です。