【二人目の女性の物語】「赤いくつ」の歌
■救われた心
遮断機が下りた。列車が近づいている。カンカンカンカン……信号は赤。車椅子を押す女性が、遮断機に近づいていく。そのまま進むと思われたその時、車椅子の少女が、歌い出した。
「赤いくつは~いてたおんなのこ……」
「赤いイチゴさん」
「ケーキ、ケーキ」
女性は、はっと我に返り、慌てて車椅子を止めるのであった。娘を道連れに自分で自分の命を絶つ。この許されない行動を取ろうとした女性・紗莉は、娘の歌に救われたのだ。
「舞ちゃん、赤いイチゴさんのケーキね」
涙が紗莉の頬を濡らしている。
何人もの人が足早に通リ過ぎていく。ケーキを買って、いつものビルの角を曲がり、閑静な住宅街に差しかかった時、雨がぽろぽろ落ちてきた。車椅子を押すスピードを上げる紗莉。
少しずつ雨が強くなり始めて、〈もう少しで家に着くんだけど、どうしよう、困った〉と思ったその時、後ろから傘が差しかけられたのだ。驚いて振り向く紗莉。
男性と目が合った。男性はそのまま傘を差しかけながら女性の家まで歩いてくれたのだ。
男性は自分が濡れたことはお構いなしで、笑顔で去っていった。
舞ちゃんはママの紗莉に促されて、後ろ姿に手を振るのであった。