座長の吉崎がアナウンスをする。
「次の発表の方は、準備をしてください」
酪農科二年の佐藤と高橋、それに山川が前に出て準備を始めた。パワーポイントのスライドは佐藤と高橋が操作する。そこへ緊張気味の山川がゆっくりと発表を始めた。
「俺たちは、今年の春から、本格的に草地の植生調査実習を行いました」
「そこであることに気が付きました。それは、学校の草地にもシバムギが三割弱ある、という事実です」
「学校の草地はきちんと草地更新をしています。調査実習をした草地は、草地更新してから三年目の草地でした」
「草地更新をしても、たった三年でシバムギが多くなっていく。こうなってしまうと、草地更新を繰り返していくしか方法がなくなります」
「しかし、ヨーロッパでは何百年も草地更新をしない『永年草地』がたくさんあるそうです。ヨーロッパでは草地更新をしなくてもいいのに、日本では、根釧原野では草地更新をしなければならない」
「もしかしたら、俺たちは、草地の大事な勘どころを知らずにいるのではないでしょうか?」
酪農科四年生と三年生は、ざわざわとし始めた。
「街のやつだろ。街のやつに何が分かるんだい?」
ぼそぼそとしたこんな声も聞こえてくる。森本は石崎に、
「厄介な発表を二年生はしてくれたな」
とつぶやく。
「全くですね、俺たちの研究計画に冷や水をかけやがって」
座長の吉崎は、勝手気ままな男たちをにらみつけると、きっぱりと言った。
「発表中です。ご静粛に願います」
おー女は怖えな、などとぶつぶつ言っていたが、間もなく静かになった。