六.計画発表

緊張しながらも、山川は発表を続ける。

「草地の植生をよくして、シバムギなどの雑草が生えないようにするためには、草地更新の年も、そしてそれから毎年化学肥料をしっかり撒くべきだと、農事講演会で教わりました」

「果たして実際には、化学肥料をしっかり撒くべきなのでしょうか? それとも実は撒きすぎなのでしょうか? 俺たちはそれを確かめてみたいと思います」

「俺たちは、実際の酪農家の草地更新をする前の草地を調べるべきだと考えています。もちろん、それまでどれぐらい化学肥料を使ったのかについても……」

「そこで酪農家の皆さんにお願いです。どうか、俺たちに皆さんの草地を調査させてもらえないでしょうか。よろしくお願いします」

山川は深々と頭を下げた。座長の吉崎は、質問を促した。しかし、特に酪農科四年生と三年生からの反応は散々なものだった。

「農業事務所が、草地更新は必要で、経営改善に役に立つと言っているのに、なぜ草地更新をしない方がいいかのような発表をするんだ?」

「農業事務所の研究成果は、信用できんと二年生は言うんか?」

「酪農家でもないやつに、草地は見せられねぇな」

このような塩梅で、否定的な発言が相次いだ。佐藤と高橋は山川の様子を見守っていた。山川は内燃とちらと目が合った。内燃は「よくやったぞ」と言うように片目をつぶって見せた。山川の腹は決まった。

「ちょっと提案が急すぎたかもしれません。もう一度研究計画を練り直したいと思います」

山川はそう発言すると、深々と頭を下げて壇上から降りた。

次は水産科の計画発表である。発表前から少し不穏な空気が流れ始めた。川原と出丸はてきぱきとパワーポイントの準備をしている。大河はゆっくりと壇上に上がった。一通り体育館を見回し、スライドの準備を確認すると、ゆっくりと語り始めた。

「学校のふ化場で、この春、サケ稚魚が大量に死んだのはもう知っていると思う」

「サケ稚魚の栄養状態に問題はなかった。しかし、水質に異常が見られた」

大河は、体育館全体を見渡して、決然と言い放った。

「電気伝導度が高かったのだ」

「川の水の電気伝導度が高いということは、川の水に電気を通す『イオン』が多いということだ」

「『イオン』は、化学肥料、家畜糞尿、酪農排水に大量に含まれている」

「俺たちは、『イオン』を手掛かりに、化学肥料、家畜糞尿、酪農排水が川に流れ込んでいるかどうかを、予備的に調査した」

ここまで大河が話すと、特に酪農科四年生と三年生が、ざわざわとしだした。大河はかまわず発表を続けた。