第一章  ギャッパーたち

(一)畑山耕作

そのまた数日後、畑山は、パトカーでの夜の巡回中に、ふらついた運転の車を発見した。畑山は、酔っ払い運転であることを疑い、車外のスピーカーから、

「前の車、すぐに車を左に寄せて止まりなさい」

と命じた。畑山は、その車の後ろにパトカーを止めて、その停車車両の運転席に駆け付けた。すると、何と、その運転手は、運転席で酒を飲んでいるのである。缶ビールを持ち上げ、その缶の口から自分の口の中へと直接にビールを注ぎ込んでいる。しかもものすごい勢いで。もう飲むというよりも流し込むという方が適切であった。

勢いがすごくて、げっぷで少し戻したりしながら必死で飲んでいた。畑山が、

「すぐにドアを開けなさい」

と命ずるが、その運転手はなかなかドアを開けない。そして、その間もどんどんと酒を流し込み、とうとう、その缶が空になってしまった。そうしたら、ようやく運転席のドアを開けて、

「あ、お巡りさん、どうかしました?」

と語り掛けてきた。畑山は、

「う、酒臭い」

と思いつつ、

「どうかしましたかじゃないよ。酒飲んで運転しちゃ駄目でしょ」

と言うと、その運転手は、

「えっ、どうして? 俺、酒飲んで運転なんかしてないよ。ちゃんと、車を止めてから酒を飲んでんだから、いいでしょ」

と言う。

「何言ってんの。さっきまで、あんたが運転してたんでしょ」

「そうですよ。でも、さっきまでは酒飲んでなかったから。車を止めてから飲んだんだから、いいでしょ。何か問題ある?」

と、しゃあしゃあと言い放った。確かに、運転前に飲酒していなければ問題はない。止めた車で飲酒しても、そこから運転しなければ、駐車違反にはなるかもしれないが、飲酒運転にはならない。しかも、この時点でアルコールの検査をしても、今飲んだ結果ということになり、飲酒運転の証明とはならない。

しかし、実はこれは、古い漫才のネタなのだ。運転が怖いから、飲まずには運転できないなどと言いながら、酔っ払い運転をしておいて、捕まったときに警官に言いわけするという話で、漫才のネタとしては実に面白いが、実際にされてはたまったものではない。