測量という仕事も、印刷広告物のデザインの仕事も、個人プレーに近い。それに社会の中でスポットが当たることはまずない。それを揶揄しては、

「僕はロンリネスじゃなくてソリテュードだからね」

と、白鳥さんは自虐なのか自負なのか、酔っぱらうと口走る。

「何か、強がってませんか。私はロンリネスかな」

居酒屋という場所は、時間が伸びたり縮んだりする。五時過ぎに飲み始めて七時頃までは普通に時間が過ぎる。手元のスマホを見て、ああまだ七時ね、と思う。それなのに、不思議なことに酔うほどに時間は短くなる。

「うっそ。もう九時。四時間飲んでましたね」

居酒屋の時間は魔物だ。

「じゃあ、そろそろ」

と、白鳥さんも席を立つ。駅まで歩く。いろんなものを食べて、たくさん飲んで、お腹が重い。明日は、仕事で朝が早いという白鳥さんと改札口で別れた。ホームを階段を上る白鳥さんの体が頭から順番に消えていく。わけもなくしんみりする。ふわふわする頭は、今、正気と酩酊が拮抗している。

夜のさみしい駅前通りをおぼつかない足取りで一生懸命歩く。どこからか清らかなものがこの体に運ばれてくる。白鳥さんと出会えて良かったと思う。一年経つけれど深くは知らない。でもこれまで、きっと時にはつまずきながら、でも明るく前向きに生きてきた人じゃないかと確信している。

自分もまた、何度となくつまずきながらも前向きに生きてきたはずで、だからそれぞれが、ソリテュードだと胸を張っていいのだ。ふわふわした頭で勇ましく考えていると、夜の川面に映る街灯の分身が揺れながら一筋に伸びていくのが見えた。静まり返った街明かりも川の水も微笑みをたたえている。