長い夢
「観音様が私に伝えたお言葉によると、私の寺から半径三十キロメートル以内の所に住む二十八歳の男性と交信を取りなさい。との強いお言葉を頂いたのです……英良さん……その男性に当てはまるのが貴方なのです。分かりますか?」
分からない、と英良は言う。
「詳しいことは追ってお話しします。まずは火急のことをお伝えしなければなりません。英良さん、良く聞いて下さい。この後一刻の後、貴方には悪しき呪いが降りかかります!それも再び命に関わることです。でも慌てることはありません。呪いが掛かった時は自分を守り護符となり、神と繋がるための神詞をお伝えします。その時は光点張福と唱えて下さい」
「こうてんちょうふく?」
「……はい。良いですね?」
英良は状況が掴めずにいた。
「……光点張福は、英良さんの光の結界を強めます……! 光の結界は、貴方を幾重にも守るでしょう……それと、呪いを掛けられた時、対峙する言霊をお教えします英良さん。怨と……掛けられた時は、滅と返して下さい!」
怨には滅、英良は繰り返す。
「そうです……! その呪いが跳ね返された後……爆と掛けられます……! それには、封と返して下さい」
「爆には封……」
「……英良さん……これも全ては観音様のお告げですが、実行するのは英良さんの意志次第。良き判断をお願いします」
と美姫は促す。
「やって頂けますね……英良さん」
「あっ? はっ? ……はい……」
「最後に破掛けてくるでしょう!その呪いには、反と返して下さい」
「……反?」
「そうです。今、英良さんの周囲には多くの悪意の元となる闇の群れが近づきつつあります。それは貴方を不幸へと導くもの。判断を誤らないようにして下さい」
英良はいつの間にか遥か上空にいた。日本が小さく見える。英良は凄いスピードで移動し地上に着いた。
「ここは?」
「変な感じだな……緑が濃い……ここは日本じゃない」
英良は身の危険を感じその場から立ち去りたかったが遅かった。黒い煙が立ち込め、中心部に歪ひずみが現れ、そこから一人の女が現れた。その女の顔は何かで塗ったように白く、唇は黒みがかった赤。髪は黒く、両目が髪に覆われていて見えない。
服装は、黒いワンピース……それも破れ、所々に穴が空いており、洞窟の中を這い上がってきたように泥で汚れた黒いパンプスを履きその容貌は見るからに異様だった。英良の身体は、吸い込まれるように女の方へ歩いていく。
「ふっ。ふっ」
女は、奇声を上げ近づいてきた。
「ふっふっ。今、あなたには呪いが掛かったのよ。分かった?」
英良は女の顔を見ている。