序章

「私の声は聞こえているな。この星の人と名の付く者、人は欲深きもの。(あが)める者が欲しいと願い神を与えた。(おそ)れる者が欲しいと願い闇を……悪意を与えた。

自ら欲した光と……その力を発端として幾度となく傷つけあった。愚かで(はかな)い種族。強欲さもここまで来ると呆れる。次は何を欲しがる。平和を求めるというのか……求めたところで再び自ら崩すのだろう。

分かるか……私の声は捉えることはできるな。己等に問う。一体何を望む? 光と闇の戦いに終止符を打つ、それはただの偽善ではないのか。もしくは自己満足とは言わぬのか。心の底より救いたい。そう思っているのか。取るに足らぬ無駄な争いとは思わぬのか」

老人は言う。そこには吸い込まれそうな静寂しかない。ひっそりとしたこの空間には、喜怒哀楽はなかった。老人は(あざけ)りもしない。(ひで)(よし)は老人の言葉に喫驚(きつきょう)し、話を聞いた。老人の顔は陰になって表情が読み取れない。むしろ無表情であり、感情を表に出さない。英良は老人の目からなんとか何を考えているのか感じ取ろうとしたが、今は無理だと直感した。

「この言葉は届いているな。私は今、己だけに問いかけている。意志を知りたいと思っているのは己だ。己は私と話し納得させることは……人間を改めさせることはできるのか。まあいい、どのみち後で己には話を聞く。私と言葉を交えるためには、強き意志が必要となる。その時は己の意志を再び問おう。人間という存在がどの程度のものか、見極めさせてもらうぞ」彼は続ける。

「この言葉は己等には届いているな。力を見せるために呼ぶのではない。私はただ話がしたい。己等が何を考えているのか。過去にも己と同じ者がいたが、結局は自我が崩壊し既に人ではなくなった。所詮人間だ。感情を捨て去ることはできない。己等は私に何を見せてくれる。ただの偽善だけでは成し得ることなどできないのだ」