第一章 晴美と精神障がい者
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父親は今日のことを伝えに会社へ行った。川木編集長は、
「それはお気の毒に……。でも我が社は慈善事業ではありません。営業をやってもらっている以上、給料の三倍は広告を取ってもらわないと営業マン失格です」
きつい口調だった。この言葉に、父親の顔が一瞬引きつった。
「給料の三倍、三倍って――。そんなにおっしゃるのなら、うちの子は営業マン失格ですね」
突如、二人の間に険悪な雰囲気が流れた――。そして、二人は睨み合った。
「では、会社を辞めさせてもらいます!」
決定的な言葉が父親の口から吐き捨てるように出た。父親はそのまま、家に帰ることができない。腹が立ってたまらないのだ。この鬱憤を晴らしてしまわないと気が収まらない。お酒を飲みたいのだが、こんな昼間から居酒屋は開いていない。仕方がないので、カラオケ喫茶へ入った。ビールを一気飲みした。その勢いでどら声を張り上げて演歌を唄いまくった。気持ちが平常心に戻って、帰宅した。
晴美は布団の中で横たわっていた。
「なあ、晴美。今日、父さんはお前の会社へ行ってきたのだが、編集長と喧嘩になって、会社を辞めるって言ってきたんだよ。ごめんな。父さんの一存でこんなことになって――」
晴美は、眼から涙をポロリと一滴布団の上に落とした。